猫田こぎん

Open App

#秋風

 秋風…今年は吹いただろうか。
 毎年秋を感じることが少なくなっているが、今年はとにかく酷暑→なんだこの暑さ→殺す気か?→まだ暑い→このまま季節が進まないのでは?→こんなに暑い日が続いて大丈夫なのだろうか→ぎゃ!寒いっ!という感じで、暑いが続いたあと、急に何もインターミッションなく「寒い!」になった印象がある。
 ここ数年はずっと秋らしい秋もなく、残暑→冬。みたいな、日本には四季が消え、二季になったとはよく言ったものだ。

 秋。私は嫌いだった。
 仕事をしていた頃。秋といえば、「インフルエンザの予防接種が始まる」「ノロウイルス、ロタウイルスなどの感冒性胃腸炎が流行する」そして、冬は死…。であった。
 10月半ばからインフルワクチンの予約が始まり、予約初日はまさにチケットぴあ(今は電話にて先着順予約するシステムがなくなったからこの言い方、若い人はわからないのでは?)状態。
 シフト外の人間が休日出勤して一日中電話番をするような有様だった。
 そしてワクチンの接種はこれまた休診日に行われるため、休日が減る。ぶっちゃけ、いいことは一つもない。
 勤務していたのは小児科だったのね。だから、もう、阿鼻叫喚なわけですよ。大人に注射を打つのなら、まあ、変な人が多少いても粛々と進むけれど、断固拒否して泣き叫ぶ子供、暴れる子供、それらを捕まえ、宥め、保定し、まさに「羊の毛刈り」。全身運動だった。
 それと、胃腸炎の流行。これがきつい。
 働き始めた頃、子供の患者さんからもらった胃腸炎はそれはそれはすごかった。後にも先にも走りながら吐いたのはあれきりだし、緑色の胆汁まで吐いたのも幸いにしてあれきりだ。
 毎年繰り返し訪れる胃痛と吐き気。それらが10月から流行がインフル一辺倒になる12月下旬まで続く。
 秋は、そんな季節。だから本当に心底嫌いだった。

 それが、そんな阿鼻地獄を飛び出し、今は涅槃におります。子供と関わることがないため、仕事を辞めてから一度も胃腸炎になってない!インフルも罹患してない!病気しなくなった!ストレスで口内炎がしこたまできてしんどかったのも今は昔!

 そうなると秋が好きになってきた。過ごしやすいしいい季節よね。最近は存在しないけど。

 それとは別に、秋には記念日がある。
 10月17日が、江ノ島神社で神前挙式を挙げた日なのです。
 父が片瀬の会社に長く勤めていて、社長と宮司さんが知り合いということ、父自身も宮司さんと顔見知りということ、個人的に江ノ島神社が好きということ、毎年お礼参りに行ける距離であること、などから江ノ島神社の中津宮で挙式を挙げさせてもらった。
 台風が心配だったけれど、当日はまさに気持ち良い海風が吹く秋晴れ。親族以外では唯一出席してもらった親友が後ろで号泣しているのを、旦那さんと声を殺して笑っていたのを思い出す。ちなみに3年後、その親友の結婚式で私もマイクを持ったまま号泣するのである。

 秋と聞いて思い出すのは、そうね、あと、家でお月見をしたことかしら。
 クリスマス、冬至、ひな祭りなど、お節句や行事をかなり細かくやっていた我が家(結婚して旦那さんが全然しなかったと聞いて、なるほど、うちはとてもやっていた方なのだと知った)。
 お月見ももちろんやっていた。
 母と白玉粉でお団子を作り、私がススキを調達してくる。それだけの、簡単なイベント。
 ある年、ススキがどこも生えておらず、途方に暮れて暗くなるまで歩き回り、泣きながら帰ったことを思い出す。母は怒りもせず、「今年は仕方ないね」なんて言っていたような気がする(あんまり覚えてない)。いつからやらなくなったんだろう。今年もやらなかった。
 私が結婚することになり、当時彼氏だった今の旦那さんがうちに挨拶に来ることになった日。
 私は後から聞かされたが、父がどうしても桜茶を出したいと、桜の塩漬けをあちこち探し回ったのだそうだ。
 おめでたい日には、桜の花が浮いているお茶を出したかったとのこと。
 変なところにこだわりがある父ならやりかねんと思うし、うちでの行事も父の意見だったのかもしれない。

 ここで文章を書くと、よく昔のことを思い出す。
 なんでもないと気にも留めていなかった事柄が、実は我が家特有のことだったり、本当はとても尊いものだったなどと気づくことができた。
 秋風も、吹かなくなった今、とても懐かしく尊いものに感じる。いきなり冬はいやだよ。いきなりはステーキだけにしてほしい。



2023・11・15 猫田こぎん
 

11/15/2023, 5:11:57 AM