にえ

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お題『雨と君』
(一次創作『この夏、君と忘れない』優斗のターン〜エピローグ〜)


 緊張の中、永遠の愛を誓い合う。
 ——俺が2位という結果を残してから丁度10年目となる今日の、まさしく今。俺と夏菜子は結婚式を上げたばかりだ。

 式場のチャペルを出ると雨が降り始めた。
 何もこんな日に……と思っていると、夏菜子が嬉しそうにはにかんだ。
「知ってる? 結婚式の雨って、『幸せが降り込む』って言って縁起物なの。私、今までだって優斗に大事にしてもらって幸せだったけど、もっと幸せになっちゃう」
 夏菜子はそう言ってブーケに顔を埋めた。
 俺がいるだけで幸せそうにする夏菜子。だけど——
「知ってる? 俺こそ夏菜子に幸せにしてもらってるって。だから、これからもよろしく」
 顔を見合わせて、ふたりで笑い合っていると、外野が騒ぎ出した。
「幸せを噛み締めているところ申し訳ないんだけど、そろそろ披露宴のお時間でーす!」
 相変わらずうるさいな、中村は。
「分かってる分かってる!!」
 そういう中村は、ちゃっかり内藤さんのところに婿入りしていた。
 だから正確には、内藤正人、ということになる。でも昔から呼び慣れてるからいまだに旧姓で呼んでいる。

 その中村が、披露宴のスピーチでとんでもないことを言い出した。

「えー、本日は『幸せの降り込む雨模様』ということで、お日柄がいいですね。中山、そして夏菜子様、心よりお慶び申し上げます」
 中村がこんなに気の利いたことを言えるとは思えないので、原稿は内藤由香里さん作なんだろうなー、と思いながら聞いていた。
「中山とは高校以来の付き合いですが、彼を陸上に引っ張り込んだのは何を隠そうこの俺です。なので中山は俺にもっと感謝すべきだ!」
 うーん、これはもっともかもしれない。
「そこであの一世一代の告白劇。いやー、俺は感動しましたね」
 あの告白に後悔はないけど、こうして改めて言われるとなんだか照れるな。
「そしてそのときの映像が、なぁんとここにあります」

 …………え?

「皆さん、見たいですか?」
 すると会場から拍手が巻き起こった。
 そうして再生された映像の中で俺は小っ恥ずかしい告白をし、夏菜子からオッケーの予約をもらった。

 な、ななな、なんで!?
 俺と夏菜子が口をハクハクさせていると、中村と野上が互いに親指を立てて見せていた。
 ——野上、あんのヤロー!
「いやー、俺が負傷したおかげでアンカーを走れたんですから、中山先輩は俺にももっと感謝してもいい」
 すると夏菜子が呟いた。
「野上くんが負傷……優斗がアンカー……?」
 あ、そうだ。夏菜子にはまだ話してなかった。10年の月日を経て、ようやく真相を夏菜子に告白した。
「……あー、俺、実は補欠選手だったんだ」
 すると。
「え! あんなにカッコいい補欠っている!?」
 え? むしろ喜んでる?
 キョドる俺、満面の笑みの夏菜子。
 からかいたかったはずの中村がわざとらしく頬を膨らませた。
「あー、はいはい。末永く爆発してろ!
 これを締の言葉としたいと思います」

 この告白劇は、子どもが生まれたその後も、長く長く語り草となることを、このときの俺たちは知らなかった。

9/7/2025, 11:40:44 AM