記録に遺す為、またこの地に降り立った。野次馬根性と言われようが、これが俺の使命だ。
数週前までここは焼け野原で、存在するのは、倒壊した家の前で膝を下り咽び泣く者と、大切な何かを捜してゆらゆらと徘徊する者だけだった。
今は、地元の男衆が鼻息荒く復興に勤しんでいる。その中にはやくざ者も混じっているようだ。俺は、近くに座る女子供に、彼奴等の炊き出しを喰らわないよう耳打ちして回った。代価は子孫代々の借銭か身体だ。お上がわずかばかりに配給を行なっているから、その情報を伝えた。
煤けた地面に転がってる家屋と人々ばかりで見通しが良い中、唯一目立つ背高のっぽの木があった。
十人ほどが立って、それを見上げていた。念仏を唱えて手を擦り合わせる老婆、真っ黒な土踏まずを見せて背伸びする少女、役立たずの無念に項垂れる片手のない青年、彼らひとりひとりが生きている。俺は一枚、記録に収めた。
「此奴はよぅ、うらの生まれる前からおるんだよぅ。死んぢまったおどのこともおがのことも、ミチコのことも、救かっちまったうら達のことも、全部ぜんぶ、覚えてくれてるんだよぅ。」
初老の男がそう言って、木肌に両手をついて、肩を震わせた。俺は、もう一枚、その背中を記録に遺した。
俺もこの大木と同じ、使命を帯びている。彼らの姿を未来の若者の為に遺したい。未来の若者らが、この時代を生き延びた人々に想いを馳せて、つながりを胸に覚えてくれたら、それ程喜ばしいことはない。
ハイカラな洋装で、未来式のカメラを首よりぶら下げて、老木となった此奴に会いに来る。彼らは口元を綻ばせてもいるのだ。
予感で胸は躍る。灰色ばかりのこの町に、希望の光が差した気がした。
11/2/2024, 12:08:01 AM