かも肉

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作品46 日の出


 秒針の音が、やけにうるさく感じる。寝返りをうとうとするが、布の擦れる音が耳障りだからできない。
 男は思う。眠れない。今日も眠れないのか、と。
 真っ暗の部屋の中で、男は目を瞑っていた。その顔は、誰がどう見ても、寝ているようにしか見えない。
 しかし、男は起きている。
 変に冴えた頭で、男は自問自答をする。最後に眠れたのはいつだったか。その問いに対する解を導き出すのにはいつも、時間がかかる。やっとのことで思い出せても、それは遠い昔の思い出のみ。それくらい、男は寝ることができなかった。
 何が俺をこんなにも苦しめているのか。
 それは不眠症だ。
 男を眠らせなくさせている原因を一言でいうとするなら、それが一番適しているだろう。しかしそれは、適しているというだけで、原因の原因は別にある。
 台所から水の落ちる音。外から車の走行音。どこからか赤子の泣き声。胸のあたりから鳴る心臓の音。
 すべてが男にとって、うるさくてたまらなかった。
 そう。男は耳がいいのだ。そしてそれが、不眠症の原因だ。
 耳がいい。そして夜はとても静かだ。その静寂の中では、どんなにやめようとしても、耳が勝手に研ぎ澄まされてしまう。それ故、周りの音に耐えきれず、男はこうして不眠症になってしまったのだ。

 布の擦れる音を我慢して、男が寝返りをうった。そうすれば眠れると信じているかのように。
 けれど、音は今も鳴っている。男を取り巻く、全てから。
 こうして男は今夜も一人、苦しんでいる。その今夜というものはもう何時間も前に、昨夜に変わっていた。
 また眠ることができず、夜が消えていく。
 また、朝が来てしまった。
 今日も寝ることを諦めた男は、少し寒いベランダで、特に何もせず、ただぼーっとしていた。空が明るくなったのに気づき、これからのぼってくるであろう朝日を見ようとする。
 東の空は、赤く、とても輝いていた。
 嗚呼なんで、こんなに朝は綺麗なのだろう。今日こそは、日の出を見れたら。
 日が昇る。
 この瞬間だけ、世界は静かだ。
 その瞬間だけ、男は束の間眠ることができる。果たしてそれは幸せか不幸か。
 男は日の出を見たことがない。
 いつか日の出を見たい。
 何度願ったその願いも、朝の静かさにかき消されて、消えていった。


⸺⸺⸺
あけましておめでとうございます!!!!!
意地でも正月関係を書きたくなかった結果、不眠症の話になりました。
さて、今年はどんな1年になるのでしょうか。
昨年のように、地震に苦しめられる始まり方はしなくて、心から安心しています。
あれを経験したら、そんなに代わり映えのない、安心安全な年くらいがちょうどいいなと思いますね。
まあ自分のことは置いといて。
ここまで読んでくれたあなたへ。
心豊かな、苦しみが限りなく少ない、少しでも幸福に溢れた1年に、なりますように。
誰がどう言おうと、わたくしかも肉がしっかり願っています!

1/3/2025, 11:35:07 PM