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兄が失踪して10年以上経っていた。

運送会社が失敗し、従業員の給料も借金も全て踏み倒し消えた。保証人だった父はその借金を背負い、肩代わりした。

当時、兄に碌な思い出が無かったので、冷たい眼で父を見ていた気がする。

コロナ化の中、対面制限で私のみが付き添う病室で、独り父は70歳の誕生日に亡くなった。70年積み重ねた時間の最期は寂しいものだった。

葬儀を済ませ、ちょうど父の誕生日から、ひと月経った日に、私のスマートフォンに見知らぬ番号から着信が入っていた。

電話番号をインターネットで調べると「大阪府西成警察署」と表示された。すぐに掛け直し、いくつかの部署を経由して生活安全課の年配の男性が早口で喋る。

「こちらの捜査中に、お兄さんが東京で見つかりましたが、自分には家族はいないと思っている、金輪際関わらないでほしいと言っています。よろしいですか」

「…結構です。ただ、ちょうどひと月前、1月9日に父が亡くなった、とそれだけ伝えて頂けますか」

「…分かりました」と言い終わると同時に電話は切れた。

父は、兄に対して相変わらず甘いな、と私はふっと笑った。

題:届かぬ想い

4/15/2024, 7:01:42 PM