びーえる風味。
「おいちょっと動くなよ」
少し動いただけなのに後ろの方から抗議の声が上がる。
「おまえなー人のこと風除けにしてるくせに文句言うなよ」
顔ひとつ分下に顔だけ向けて反論する。
「お前の方が大きいんだから思う存分風除けになってろよ」
寒い寒いと身を縮こませながら人の背中にぴとりとくっ付いて寒さを凌いでいる。
確かにここ最近暖かい日が続いてはいたが、時折り冬の寒さを発揮してすごく冷える日がある。
まさにそんな日。
日差しは暖かいのに吹く風は氷のように冷たい。
どこかに出掛けようと元気いっぱい人の家に現れたくせに外に出た途端これ。
「そんな寒いならもっと防寒して来いよ」
ただでさえ細身で寒そうなのに着ているものは明らかに今日の気温には足りてない。
「こんなに寒いとは思わないやん」
俺の家に来るまではどう感じてたんだ?
変わらず寒かったと思うけど?
とは思うけど反論されそうなので黙っておく。
「ちょっとここで待っててよ」
そう言うとあからさまに不満そうな顔で見上げてくる。
「こんなに凍えてる俺を置いてどこに行く気だよ」
まぁまぁと宥めてその辺の陰に避難しときなーと風が当たらないような建物の元に誘導する。
「ちょっとだから。そこで待ってて」
そう言って近場の自販機の元へ。
あいつの好きなココアと自分のコーヒーとを急いで買って戻る。
「ほら」
凍える彼の目の前に差し出すと嬉しそうな顔をして小さな缶を大事そうに頬に当てたり手を温めたりしてる。
「さんきゅーな」
あったかいとか呟きながら小さな温もりで暖を取っている。
それでも見てるこっちはやはり寒そうで。
「こっちもあげようか?」
自分の分のコーヒーも差し出す。
いいの!?と目を輝かせて手を伸ばして来たから。
その手を掴んで自分の幾分大きめのコートのなかに引き入れた。
測らずしも俺に抱きつくカタチになってしまった彼は抗議の声を上げる。
「お前何すんだよ!!」
離せよとジタバタするからちょっと強めに抱きしめて動けないようにする。
「だってお前寒そうなんだよ。見てるこっちが寒い。大人しく入っとけ」
何か胸元でもごもご言ってたけど暖かさに負けたようで。少ししたら大人しくなった。
ちょっと力を弱めてコートのなかを覗き見る。
「ヤローに抱きしめられてんのはアレだけど確かにあったかいな。今日は許してやろう」
何だか偉そうに顔を埋められる。
「そだろそだろ。ヤローに抱きしめられたくなかったらもっと厚着して来いよな」
「それは考えとく」
「何でだよ」
寒い日も案外悪くないなと密やかに笑う。
それを理由に触れ合えるのだから。
(寒さが身に染みて)
1/12/2026, 9:59:16 AM