牧山丁

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未来

 部屋でぼぅっとしている。
 無意識に、僕は瞼を閉じる。

 ブラインドを閉じたような、陽射しからの暗闇に。暗闇はアメーバに。ぐねぐねと動き、形になっていく。動きはスローモーションではなくて、早送りな画のように。それはまるで、影絵みたいで、どこか砂絵のようでもあって。瞼の裏側に、一寸先の未来を描く。

 未来が見えるというと、とても羨ましい話のように思える。それでも、見えるのが僅かに先のことで、しかも瞼を閉じるというワンクッションが、この有難いはずの力を、とても使い勝手の悪いものにしていた。

 どれだけ早送りなアメーバも、瞬きの素早さには追いつかないし。覚醒と睡眠では、瞼を閉じる工程が同じでも効能は違うようで、睡眠中に未来を見通せたことは一度もない。あくまでも意識的に。もしくは、無意識的に。完全な覚醒を保ったまま、瞼を閉じることが必須のようだった。

 この条件を満たして映し出される未来といえば、これがまた、下らなくて泣きたくなる。飲食店で料理を口にしたときの自分の反応だとか。ボードゲームをしたときの自分の勝敗だとか。カラオケで熱唱したときの、友人の微妙な表情だとか……。

 ちょっとした得があるとすれば、毎週日曜日のじゃんけんに無敗でいられることぐらいだろう。

 一寸先は闇という。
 先の予測がつかないことの喩えだ。

 限定的ではあれ、一寸先の未来を見られる僕に光はあるのだろうか。闇に触れたことも、光に触れたこともない身からしたら、一寸先が分かるとも、分からなくとも、どうでもいいような気がしていた。

 部屋でぼぅっとしている。
 無意識に、僕は瞼を閉じる。
 
 アメーバが形を作った。取り乱す母の姿。
 おじいちゃんの様子が変だと。
 僕は、最期の声に間に合わなかった。

 なら、瞼を開こう。駆け出すために。
 声に間に合う、未来がまだあるかもしれないから。

6/17/2023, 1:47:23 PM