【今年の抱負】
「あれ、おっかしいな……」
洗面台から、君の困惑した声が聞こえてくる。
バタバタと慌ただしく足音を立てるかと思うと、僕の方に向かって、腕を掴んできた。
「ど、どうしたんだい?」
「……俺、この前よりも太ったんだよ」
至って真剣な顔で見つめてくる。そんなに太っているようには見えないが……
「まぁ、少しくらいは体重が増えても良いんじゃないか?そんな変わってるようにも見えないし」
チッチッチ、と君は人差し指を立て、左右に揺らす。
「いやいや、それは違う。クールな男っていうのは、常に体を引き締めないといけないんだ」
……クール?と一瞬疑問に思ったが、口には出さない事にした。
「……そうだな。今年の抱負って事で、俺は今年が終わるまでにムキムキになってやるぜ」
「今年の抱負?」
「あぁ。今年の目標って事にしときゃ、やる気が出るだろ」
今年の抱負か……そういえば考えてなかったな。
まぁ、あるとすればアレだな。
「なるほどね。じゃあ僕も目標を決めて、君と一緒に頑張ろうかな」
「良いな!で、お前は今年の抱負、何するんだ?」
「料理だね。君の胃袋を掴めるくらいには上達したいかな」
「それじゃ俺が太るだろ!」
いやいや、邪魔はしないよ、と言ったが、内心ぽっちゃりした君を見てみたい……という思いがある。
それを悟られないために、僕は笑って誤魔化した。
「まぁまぁ、お互いに頑張ろうよ。僕だって筋肉をつける料理、作ってあげる事もできるしさ」
君は一瞬悩んだ様子を見せるも、すぐに笑顔を見せた。
「ま、そうだな!一緒に頑張ろうぜ!」
君を言いくるめる事に成功した僕は、一緒に頑張ろうと言いつつ、どうやって君を僕の料理の虜にできるか、しめしめと考えていた。
1/3/2025, 12:21:56 AM