未知亜

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ㅤ久しぶりに会った姪っ子は、公園までの短い距離を右に左に立ち止まりながら進んだ。顔立ちも面影も赤ん坊の時そのままなのに、身体の大きさだけが会うたび巨大化している気がする。
「まま、みてー!ㅤありしゃん!」
「ほんとだ。蟻さんいたねー」
「みーたんも、みてー!」
「ほんとだー。蟻さんだね」
ㅤ応えながら優茉ちゃんの隣に座る。
「すぐそこの公園がこんなに遠いとは思わなかった」
「そうなの。子どもいると、すべての工程が最大限まで引き伸ばされるね。時空が歪んでる」
ㅤ優茉ちゃんは、飛んできた蝶に気を取られている。かと思うとその場に突如立ち止まり、腰を落としてガニ股に「ちー!」と叫んだ。
「やめなさいよ。道の真ん中で」
ㅤ百合子が笑って、優茉ちゃんを道路の端に引き寄せた。
「なに?ㅤいまの」
「なんか、おしっこの真似らしくて。保育園で流行ってるんだって」
ㅤ変なことばっか覚えてきちゃって困っちゃう、と百合子が口を曲げた。
ㅤ優茉ちゃんは両手を広げ、公園を囲む低い石の上を歩き始める。
「世界が広がるねえ、外に出ると」
「確かに。言葉は増えたねえ。親の知らないことが、どんどん増えてくんだろうなあって、洋ちゃんとも話しててさ。なんか寂しい気もするけど」
「恋とか、するんだろうなあ」
「それ、洋ちゃんも言ってた。早くない?」
「いやいや、あっという間だって」
ㅤ試しに、この子が恋に胸を焦がして、夢見る少女のようになるところを私は想像してみた。
「ちー!」
ㅤという元気な声にすぐ中断される。
「ダメだ。このポーズ、優茉ちゃんの結婚式まで忘れらんなそう」
「それこそやめて。時空歪ませないで」
ㅤ笑い崩れる私の背中を優茉ちゃんのそれとまとめて叩き、百合子は私たちを公園の中へ促した。


『夢見る少女のように』

6/8/2025, 9:10:43 AM