小さい頃、お兄が昔のアタシに難しいことを聞いてきたことがある。
*
「なあ…理想郷って、なんだと思う?」
「りそう…きょう?」
みんなが自分のユメを好きにかなえられて
みんながみんなのお話しをちゃんと聞くところ
そう言ったら、お兄はわらってアタシの頭をなでてくれた。
「そっかそっか……まだお前には早かったか」
「むぅ!アタシもう子どもじゃないもん!」
「あはは、そうだね」
お兄は、ここじゃないどこかを見るような目で、アタシと話している。
だからアタシは、言ってみた。
「お兄。なにか、なやみごと?」
「⸺!…そっか、バレるか。そうだな……何を聞いても、泣かないか?」
「ん、ダイジョブ!アタシ、なかないよ!」
「そっ…か…。じゃあ、話すよ」
そうして、かくごがきまったような顔をしてお兄はこういった。
*
「『⸺近いうちに、理想郷を探しに旅に出ようと思ってる』か。理想郷を探した人間の末路なんて、母さんで知ってたのに……なんで行っちゃったのかな」
うるさい男共の口撃を無視しながら呟いた。
お兄はアタシの憧れだったのに、理想郷を探しに行ったことは、一番キライ。
⸺ホントにうるさいなぁ。格好や話し方なんて個人の自由。なのにグチグチ……アタシも旅に出ようかしら?それがいいかもしれないわね。頭…父さんには、悪いけど。
【理想郷を求めた人が置いてきた誰か】
11/1/2024, 5:47:01 AM