いぐあな

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300字小説

恩返し

 幼い頃、僕は兄弟の中で誰よりも臆病な子だった。武術より部屋で本を読んでいるのが好きで、そんな僕に愛想を尽かし両親は追いやるように地方の学園に入学させた。

「へぇ、役人さん、あの学園出身なんだ」
「ああ。学園近くの酒屋の親父がね、臆病な僕に『臆病ってのは裏を返せば慎重で思慮深いってことなんだ』と言ってくれてね。そこから一念発起して勉強に励んで役職に着いたんだ」
「ほう、そいつは良い親父に会えたもんだ」
「全くだ。そうだ、この店で一番良い酒をくれ」
 立派な身なりの男が村の酒屋から出ていく。
「大臣、よろしいですか?」
「ああ。思い出の店に少しだけ恩返しが出来たよ」
 男は酒瓶を大切に抱えると豪奢な馬車に乗り込んだ。

お題「誰よりも」

2/16/2024, 12:36:30 PM