作家志望の高校生

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さくさくと小気味良い音を立てながら、表面に薄氷の張った雪の上を歩いていく。
これまで、多くの街や集落を訪れてきた。多種多様な種族に民族、それに合わせた風習と文化。どれもが刺激的で目新しかった。元々俺の種族は、平々凡々としていて特徴も無い。良く言えば穏やかな、悪く言えば代わり映えのしない日常が退屈になって、仲の良かった親友を誘って二人で街を出た。
出会った人々は、誰もが違った常識で生きていて、そのどれもがキラキラしていた。当然、中には救いようのない悪党や、泣きたくなるほど不遇で憐れな人々だって居た。けれど、彼らのもつ価値観や善悪も全て、これまで生きてきた経験と景色の作り出した概念なのだ。だから、言動の一つ一つをよく観察して読み解けば、必ずどこかには輝く星のような綺麗なものが見える。俺はそれが好きだった。
親友はそういった読み取りが苦手なようで、ただひたすら真っすぐ、純粋に見える美しさを好んでいた。だから、「その人たちが今持つ幸せ」を重視して関わらないようにする俺とは少しだけぶつかることもあった。
ずっと前、どこかの村の孤児を見たときに、俺達は一番激しくいがみ合った。親を亡くし、忌み子だと村で虐められていた子だった。俺は、可哀想だとは思った。けれど、手は差し伸べない。その子が自ら得た小さな幸せこそ、他者から与えられる何より綺麗で、その子にとっても自らの力で得た幸福こそ真実だと思ったから。逆に、あの真っすぐで純粋な親友は手を差し伸べた。俺達が旅立つまでの僅かな間でも、心が休まるようにと。たぶん、どちらも間違いではなかった。正義と悪なんかじゃなくて、正義と別の正義でいがみ合ったんだと思う。
それを収めたのが、渦中に居たその子だった。その子は、自ら考え、少しギスギスした俺達を誘って遊んだ。それは、俺達2人をどちらも満足させる行動であった。
旅立つ頃には俺達3人はすっかり打ち解けて、出立の日には泣かれた。一瞬、あの子を連れて行こうかとも思ったが、それはあの子が拒否した。ここでの生活は辛いことも多いけど、いいこともあると教えてくれたから、と。強い子だった。
2人でそんな過去の思い出を語りつつ、雪原に二筋の足跡を残していく。なんとなく、別れの日に見たあの子の涙に似ている気がして、またあの村に寄ってみるのも悪くないかもしれないな、と思った。表情的に、たぶん隣を歩く彼も同じようなことを考えているのだろう。この旅がいつ終わるかなんて分からない。けれど、またあの子のような、強く綺麗な人の世界観が知りたくて。あるいは、あの子のような存在に気付いて少しでも救いたくて。何もかも正反対で、何かと馬が合う俺達は、次の街へと歩を進めた。

テーマ:旅は続く

10/1/2025, 5:25:34 AM