KAORU

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「運命の人に巡り逢えたら、その瞬間にわかるのかなぁ」
 結婚相談所で、そんな泣き言を漏らしたら、説教を食らった。
「何を寝ぼけたことを。そんなご都合主義、あるわけ無いじゃないですか。運命の人には会えません。地球上に一体どれだけ人間が暮らしてると思ってるんですか」
 えらい剣幕。俺は思わず怯んだ。
 担当の人は言った。
「出会った相手を運命の人にするのです。時間と手間をかけて、自分の無二の相手に育てていくのですよ。結婚ってそういうものです。出会って、結婚してからの方がずっと、ずーっと長いのですよ」
「はーー、はい…」
 気を呑まれた。すっかり。ごもっとも。
 はあ……。
「ところで、あなたは薬指に指輪をしてないけど、その、独身?」
「え、あーーこれは、はい」
 担当の人は左手をとっさに右手で覆った。
「私は、一度結婚で失敗しておりまして…。すみません、縁起悪いですよね」
 でも仕事はきっちりさせてもらいますのでご安心を!と拳を握る。
 俺はへぇと、まじまじと担当の人を見た。
 改めて見ると、これは……。
「何です?」
「いえ……。さっき言いましたよね、出会った人を運命の人にするのが結婚だ、って」
「い、言いましたけど……」
 何か、と上目で俺を見る。その視線が、結構可愛らしいことに、気づいているのかいないのか。
 俺は言った。
「それを実践してみたい。あなた、俺と結婚を前提にお付き合いしませんか。会った人を運命の人に育てるっていうあなたの御説を、リアルに体験してみよう、俺と」
「ーーは?」

 俺たちの結婚ラプソディは、こんな風にして始まった。

#巡り会えたら

10/3/2024, 10:58:23 AM