シオン

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「この世界って、不思議な世界ですよね」
 座学の区切りがついたとき、サルサは外を見ながらそう言った。
「…………そうですね」
「あ、ウィルさんもそう思うんですか?」
 ウィルの相槌にサルサは嬉しそうな顔をしながら彼の方を見つめたが、ウィルはゆっくりと瞬きをした。
「何回も貴方が言っているので、貴方にとってはそうだろうと思っただけですよ」
「……そう、ですか」
 悲しそうな声でサルサは目を伏せる。同意されたと浮き上がった気持ちは、否定によりしぼんでしまったらしい。可哀想に、と哀れむような顔でサルサを見つめたウィルは、すこしだけ微笑んで咳払いをした。
「……それなら、貴方の世界と比べて違うことをあげていきましょうか。そうしたら、貴方にとって不思議だと感じることは私たちにとっても不思議なことになります。つまり、不思議を共有できますよ」
 サルサは顔をあげてウィルを見つめて首を傾げた。
「…………えっと?」
「貴方にとってこの世界が不思議だと思うということは、貴方の世界のことを私が不思議だと思うということです。分かりますか?」
「ああ、なるほど!」
 サルサは嬉しそうに言った。
「そうですね、では……赤い月の代わりはなんなんですか?」
「太陽です。色は絵で描かれると赤いことが多いですが、色が明確にあるわけではなくて……光は白いです」
「光が、白……。目に優しそうですね」
「でも、直視すると目が見えなくなります」
「……なんと」
 ウィルが目を伏せた時、誰かが机をトンと叩いた。
「やぁ、二人とも、勉強は進んでる?」
「……アリア」
 ひらひらと手を振りながらニコニコと微笑む彼女に対してサルサが口を開いた。
「アリアさんはこの世界とボクが住んでた世界の違い、何か分かりますか?」
「それ勉強にかんけーあるのか〜?。まぁ、いいや、えっとね………別れの言葉、かなぁ」
「……別れの、言葉?」
 サルサは首を傾げ、アリアは辺りを見渡したあと小声で言った。
「キミの世界だと『バイバイ』って日常的に使われる別れの言葉だけどね、この世界だと『もう永久に会えない人』にしか言っちゃいけないんだよ」
「……え!?」
 サルサは驚いたように目を見開いて、ウィルは大きく頷いた。
「だから別れの時は必ず『またね』とか『さようなら』とかにしようね。ということで、まったね〜」
 アリアはニコニコと微笑みながら去っていった。

2/2/2025, 10:06:12 AM