どうしてこの世界は
……何という無関心な世界だ。
男はそっとほくそ笑んだ。
男の正体は宇宙からの侵略者、ここは太陽系第三惑星の東方の地である。
擬態して都心部に降りたってみると、住民の無関心さに、男は驚くばかりだった。
その理由は分かっている。
この星の住民は個々に意識を持っており、あの貧弱な頭部で各々別のことを考えているらしい。
種の共有意識器官をもつ男には、信じがたい非効率な生態だが、侵略にこれほど好都合な星はない。
試しに大声を出したり近くの物を破壊したりすると、住民はちらっとこちらを見るだけで、すぐに目をそらして去ってゆく。
個に関係しない限り、何が起ころうが無関心ということだった。
早速本隊を要請しようと決めた男は、ついでに通りすがりの原始的な乗り物を蹴りつけた。
中には住民の幼体が乗っており、倒れた拍子にけたたましく鳴き出した。
幼体の強度を確かめるべく手を伸ばした、その時。
突然背後から激しく突き飛ばされ、気づくと男は住民に取り囲まれていた。
数人が上からのし掛かり、大勢が薄っぺらな四角い機器をかざしている。
「赤ちゃんになんてことを…」
「無事で良かった…」
「悪い奴…拡散…」
「警察はまだか…」
言葉は解らずとも、住民たちの怒気が束になって迫ってくる。
“なぜだ…?”
男の頭の中に、母星の仲間の共有意識が混乱しつつ流れ込んだ。
“この世界に共有意識はないはずなのに…どうして…”。
6/10/2025, 3:51:02 AM