たなか。

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【それでいい】

私が泣いちゃう理由はあれでいい。そうだ、今日の晩御飯はこれにしよう。あのテレビ番組もうすぐ最終回なんだっけ。あぁ、疲れたな。それでもいっか。それがいっか。淡々と思ったことを思うままにして口を閉ざした。いつからでしたっけ、この関係が凍り始めたのは。貴方を見る目が変わったのはいつだっけ。
「離婚届け、出しといてくださいね。荷物、小さい物は持っていくので大きい物は郵送してください。」
いつも以上に淡泊な会話。いつからだろう。私は高校、大学の頃から変わらず、いや、少しは変わったのかもしれないけど好きだった。貴方は変わったかな。変わったかもしれない。でも、圧倒的に変わった部分を知っている。私に好きと言わなくなったよね。いつからか、冷たくなったし。浮気、知らなかったよ。決定的な離婚の決め手。でも、それでよかった。それでいいから。貴方のことを愛せてよかったなんて言わないから。幸せになってね。泣いてしまうかもしれない。
「今回もなかなかな漫画だな。」
「でしょ、いい感じ。」
相変わらず救われない女の人の話を書くなぁ、と。自分で思う時がある。それでも、女の人の泣き顔ってどこか強くてかっこいい。この後、必ず幸せになる。そんな期待を持たせてくれるんだ。死に物狂いで誰かを救いたい。それ一心で今日も机に向かう。昔、救えなかった子を救うように。ドロドロと零れ落ちた何かを掬うように。あの時は、その子の背中が小さくて脆く見えた。
「彼氏と別れたんだ。」
その目がどんどん壊れていく姿が怖かった。隣で見てるのにどう声をかけたって何をしたって意味が無いことが分かってしまう。貴方を救えるのは優しい偶像。彼氏だけ。
「ねぇ、貴方は今これでいいなんて思える恋愛をしている?」
貴方が今どんな男と付き合っているか私は知らないよ。貴方の壊れていく目は何を捉えたの。それとも、囚われてしまったの。
「ん、なんか言った?」
「なんも。」
私が貴方を幸せにしてそれでいいと言わせられる人生にしてあげたかった。漫画を描き変えるならあの子を私の世界に呼んでハッピーエンドに約束を。

4/4/2023, 2:49:53 PM