すゞめ

Open App

『凍える指先』

 ベッドで眠る彼女の横に潜り込む。
 冷えきったこの指先が、彼女の肌に直接触れないように気をつけながら抱きしめた。

 あったか。

 彼女が眠りについて数時間。
 じっくりと羽毛布団で温めた彼女はホカホカだった。

   *

 この時期になると毎回疑問に思うことがある。
 ふかふかのベッドの上で、上質な羽毛布団を羽織って眠っているのに、どうしてか手足が冷えるのだ。
 まだ寝ていたいのに、寒さで意識が冴えていく。
 一方で、俺の隣で健やかな寝息を立てている彼女の体温は高かった。
 寒がりのクセして自身は湯たんぽとか羨ましい限りである。

 彼女の体をギュウギュウと抱きしめて暖をとった。
 次第に彼女が落ち着きなさそうにモゾモゾと首を横に振る。

「んー……」

 ありゃ。
 起きちゃったかな。

「おはよ。早いね?」
「いえ。あと2時間は寝ます」

 間髪入れずに答えれば、彼女は重たそうな瞼を持ち上げて口元を緩めた。

「それは寝すぎ」
「なんとでも」

 今日は彼女も休みのはずだ。
 記憶違いでなければ予定も特に入っていない。

 こんなにも冷え込んだ休日の朝くらい、怠惰に時間を浪費してもバチは当たらないはずだ。

 俺の腕の中から逃げ出そうと、彼女はベッドを転がっていく。
 なんとか阻止したくて、彼女の服の下へ手を伸ばした。
 寒さで硬くなった関節のせいで、彼女に触れる手がぎこちない。

「みゃあっ?」
「ふふっ、冷たかったです?」

 意地悪く聞けば、彼女は肩口から睨みつけながらうなずいた。

「じゃあ、俺の手が冷たくなくなるまで温めてもらわないと」

 暖をとるように服の下に忍び込ませた手を緩やかに動かした。
 与えられた熱の刺激が強すぎたのか、ジクジクと痺れにも似た感覚が指先に走る。

「ねえ。離してっ」
「イヤです」

 最初こそ、迷惑そうにして身を捩っていたが、すぐに俺の体温と馴染んだ。
 柔らかくて滑らかな皮膚を堪能できる程度には指先が動くようになったとき、彼女の体が大げさに跳ねる。

「んぁっ」

 朝から甘やかな声が彼女の口から溢れた。
 彼女は咄嗟に口元を隠したが、瞳に孕んだわずかな熱は隠しきれていない。

「なに、その声」
「……違う……」
「かわいい」

 じんわりと赤らんでいく彼女の頬に軽く口づける。

「もっと聞かせて?」
「ヤダっ、ぁ……、ふっ」

 戸惑いがちに揺らした瑠璃色の瞳をもっと乱したくて、俺は彼女の薄い桜色の唇をさらった。
 下心に塗れたリップ音と彼女のくぐもった吐息が混ざり合う。
 熱でほぐされた指先で、俺は彼女の肌に触れていった。

12/10/2025, 7:29:11 AM