ゆかぽんたす

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眼の前に焼け野原。
ついさっきここは空撃されたばかりで、あちらこちらに煙が上っていた。僕も、ここから早く逃げないといけないらしい。僕の身の安全を考えてくれる人がいないから自分で決めなくちゃならない。家族はこの前の襲撃で離れ離れになってしまった。生きてるのか死んでるのかも分からない。もしかしたら、あそこに広がってる瓦礫の下に埋もれているのかもしれない。それくらいひどい惨状があたり一面に広がっていた。
今日はクリスマスなんだって。誰かがさっき逃げながら言っていた。キリストの生誕日にこんな火の海の景色が見られるなんて悪趣味にもほどがある。こんな不幸な街には、どんなにいい子にしてようがサンディクローズもやって来ないだろうな。
遠くでまた、爆撃が聞こえた。誰かの悲鳴と男の人の怒号とサイレンが一気に聞こえてくる。ぐちゃぐちゃになって見事な不協和音を奏でている。聖なる夜に、こんな音楽が流れることがあるだろうか。祈りを捧げる日だというのに、誰もそれどころではない。ならせめて僕だけでも、神に祝福と敬愛を。
その場で寝転んで夜空を見上げた。コンクリートの上は固くて冷たい。最高に寝心地の悪いベッドの上でサイレントナイトを口ずさむ。なんだかベルの音が聞こえてきそうだ。地上はこんなに荒れていても空はいつものように綺麗なままだった。
「Silent night , Holy night...」
あのどれかの星が、僕のもとへ落ちてきてくれないかな。そして願いを叶えてくれないかな。もうこんな日々は嫌だ。プレゼントもご馳走も要らない。代わりに早く戦争を終わらせて。もし来てくれたら、僕はそう願うんだ。

12/21/2023, 8:11:56 AM