ゆじび

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「秘密の箱」


『この箱は、開けてはダメよ。
 この箱はいつか大切な人を亡くしたとき、苦しくて寂しいという気持ちを乗りきった後に開けてごらん。そうしたらきっと大丈夫。』
お母さんが言った。
本当に私が小さい頃で、この記憶が私にとって一番古い記憶。
この言葉の意味はいつまで経っても分からないまま。

大好きなお母さんはいつも寝ていた。
広いベットで分厚い毛布を被っていた。
いつも咳き込んで、苦しそうだった。
それでもいつも私が会いに行くと、体を起こしてお話してくれる。
大好きだった。


昨日母が死んだ。
病気だって。
ずっとずーっと苦しいなか生きていたらしい。
苦しくて寂しくて私の心は強く傷んだ。
なにもできなかった自分を恨むことすらできなかった。


なんとか整理がついたんだ。
お母さんが亡くなったことだって、仕方がないことだと理解できた。
もうお母さんが亡くなってから半年ほど経った。
私はお母さんが言っていた箱を開けてみることにした。

実家の家の奥。
小さな小屋があってそばにはたくさんの花がある。
綺麗だった。そのなかにはお母さんが好きだった
黒色のコスモスがあった。
お母さんは愛されていたんだと、改めて感じた。

箱を開けてみることにした。
重いような箱を優しく開けると、そのなかにさらに小さな箱が入っていた。
その箱には、『我が子は世界で一番可愛い!』と
書いていた。お母さんが死ぬ前に書いたのだろうか。
思わず笑みがこぼれた。

箱を開けてみると、小さな巾着袋のようなものと、たくさんの手紙があった。
手紙はどれも私の名前が書いてあった。
私に向けて書いたもののようだ。
巾着袋には骨のようなものが入っていた。
これはきっとお母さんだ。
「お母さんは、いつの間に骨になっちゃったのかなぁ」
そう呟く私の声はきっと震えていた。
涙が頬を伝って落ちていった。


私はもう大丈夫。

10/25/2025, 10:10:25 AM