大好き
「大好きだよ」
画面越しに囁かれた愛の言葉に思わずため息が漏れる。それは言葉の意味をそのまま受け取った恍惚の意味のため息ではなく、現実とのギャップに対する辟易の意味。
大好きなあのアイドルからの愛の言葉、嬉しいはずなのに素直に受け取れなくなったのはいつからだろう。ライブに行ったら他のファンと同じように甲高い悲鳴を挙げる以外の選択肢は無いが、ここがとっ散らかったアパートの一室ならそうは行かない。さっき食べたカップラーメンのゴミだとか、干しっぱなしの毛玉だらけのアウターだとかがやけに現実に引き戻してくる。明日もまた仕事かー、とか、来週の友達の結婚式の出費が地味に痛いなー、とか。考えたくないことばかりが頭を埋め尽くして素直に画面越しのライブを楽しめない。彼は汗さえもキラキラしてるのに私はメイクもほとんど落ちてボロボロ。彼は一つずつ夢を叶えてたくさんのステージに立って皆に愛の言葉を伝えるが、私は一つの仕事をこなすのにもたくさん時間がかかるし、口を開けば謝罪の言葉ばかり。学生の頃はたくさん訪れていたライブも今やオンラインばかり。平日になんて行けやしない。彼のためにと気合を入れていた化粧も服も髪も爪も、オフィスカジュアルを提唱する職場には一つもそぐわない。何年前かのあのライブツアー、最前列で、あれは絶対に私を見て彼が言った「大好きだよ」の言葉。彼が今、私の目の前に現れても、同じ顔で、同じ温度感で、「大好きだよ」と囁けるだろうか。いや、無理だろう。きっと引き攣ってるだろう。いや、やっぱプロだから言えるのかな。なんて悶々と考えては、まだキラキラとした画面が広がる中、ソファの上で重たくなった瞼を閉じた。
3/19/2025, 10:00:32 AM