お否さま

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【寂しさ】
ぱたん。
私しかいなくなった部屋に空っぽな音が響く。
その音で去ったことを実感し、ふと胸が苦しくなった。
先程までソレはそこにあったのにもう跡形もなく溶けてなくなってしまった。手を伸ばしても、もう同じ感情は戻ってこないだろう。得られるのはきっと歪んだ欲望といっときの安心感だけ。その後のことを考えるととてつもない恐怖に襲われる。明日の朝に自分の行いにハッキリとした代償が待っている。無情な感情が私を突き刺してもうどうしようもないほど情けを乞うてしまうだろう。
想像は妄想ではなく確たる未来。
分かっている。分かっているというのに。

テーブルから離れられない。テレビの音がうるさい。視界がぐにゃりと曲がり始めた。ああ、私はどうしたらいいというのか。
彼は本当に悪い人だ。
私にこんな酷な選択を残して、消えてしまうなんて。思い続けた気持ちを無視して既製品を押し付けて、都合よく私を扱うだなんて。それを拒む選択が出来ないって知っているくせに。
本当ならそんなもの払い除けなきゃ、急いで外に出なきゃ。そう思う体は自覚をしているのに一切動こうとしない。
彼が私に残したものはそれほどまでに私の中で、大きな感情と成り果てていた。このままで醜く肥えた豚のようになってしまうと分かっていても動けない。それのことを考えるだけで、私の中の獣が物欲しげに腹を鳴らす。
あなたが欲しい。今すぐに妥協なく容赦なく呵責なく如才なく遠慮なく食い尽くしてしまいたい。
口寂しさにその名を舌で転がす。けれど感情は強まるばかり。
もう、耐えられなかった。

私は、もう一口と手を伸ばした。
テレビでやっている有名店のではなく、スーパーで売っていたシュークリームに。
彼は気は利くし好きではあるのだがこういう部分は厳しい。

ああ、明日の体重計が憂鬱だ。

12/20/2024, 5:17:44 AM