千篇一律なアフロの軍団。全身真っ白でいかにも清潔な布を身にまとい、声もなくただただ追ってくる。
四方八方真っ白な空間。
どこが光源なのか分からないが、とにかく影とのコントラストからできる凹凸のおかげで、ここが施設内であり廊下であることを脳が認識できた。
ペタペタと廊下に足をつけているのに、埃がつく感覚はまったくない。行き先が閉ざされていても、近くまで来ればおのずと開いてくれる。
口から「ハッ、ハッ」と空気の出入りもなく。
ドクンドクンと首の下から音と振動が伝わってきて、それが激しくなるたびに苦しい。
広い空間。
横長に広く、何か四角いものが床の上に生えていた。行きどまりかと思ったが、プシューッと音をたてて開いたから。
迷わずに足許の隙間を乗り越えて。
すると、アフロの軍団が隙間を乗り越える前に壁が閉まった。壁の上半分は透明で、隔てた向こう側――アフロたちがよく見えた。
それらはぴたりと動きを止め、直立不動。
じーっと黒目だけが追ってきている。
頭上から、
『■■■■行き、只今発車致します』そう声が。
それと同時に地面がずれてゆく。揺れとともに前方へ進んでゆく感覚。どんどんとアフロたちが遠くなって、途切れた。
突然の大きな揺れ。
身体が後ろに持ってゆかれ、転ぶ! と思ったが、何か、やわらかいものにぶつかって倒れずに留まった。
また頭上から同じ声が、
「この先揺れることが御座います。お気をつけ下さいませ。こちらに御座います座席にどうぞご着席を」と。
見上げれば、三メートル以上はありそうな人型。
鋭い眼光が見下ろしてきて竦む。それにしては、引かれる手はひどくやさしい。
……凄まじい眼光には思わず目を背けてしまうけれど。
動きが停まった。
壁の透明部分からはアフロが見える。
それが近づき切る前にふたりが走り込んできた。手をつないで、後ろを見て呆然とする顔はよく似ている。
同じように大きな人型は座席に誘導した。見れば、長い座席には何人もが座ってそわそわしていた。
気がつかなかっただけで、数は多い。
それらを見渡した大きな人型は、
「ご乗車有難う御座います。こちら、始号は終着駅まで停車しない特急列車で御座います。お降りのさいは声をかけさせて頂きますため、それまでどうかお座りになってお待ち下さいませ。間食は車内にてご用意しております。順次配給して参ります。途中下車は場合によってのみ許可されております、ご理解下さいませ」
深く頭を下げてからどこかへ行ってしまった。言っていることの半分も分からなかったが、となり合う数名も同じように首を傾げていたから、まあ、そんなものなのだろうと。
しばらくすれば、あの人型が「間食で御座います」と渡してきた。長さと厚みのある、肌色のカサついたもの。
少し硬さがあって、口に含めば口内の水分が軒並み取られる。おいしいのかおいしくないのかは、よく分からない。
人型が言っていたとおり、停まる回数は少なかった。停まったときに、座っている子を壁の向こうまで誘導して。
それから目線を合わせるようにしゃがみ、大きな手でその子の手を握る。
「ここがあなたの終点で御座います。またのご乗車を、心から、心から、お待ちしております」
その子はアフロのひとりに抱きかかえられて、そこに置き去りになった。
それがひどく怖くて。
途中では別の号車から人型ほどではないが、大きな人型がたくさん入ってきた。彼彼女らの年齢は様々で、けれど一様に首飾りを持っていた。
それを受け取る子と受け取らない子がいて。
動き出した箱は、たまに停まることが多かった。壁が開かないときには、人型が「只今、運行状態の確認をしております。ご迷惑をおかけしますが、どうぞそのままお待ち下さいませ」とアナウンスをしてまた動く。
これを何度か繰り返した。
何だか、喉がむず痒い。
そうしていると、またゆっくりと動きが停まる。
少し身構えながら待っていると人型が出てきて、背筋をピンッと伸ばし居ずまいを正した。
「皆様、長らくのご乗車、まことに有難う御座います。当列車はまもなく終着駅に到着致します。皆様、お忘れ物の御座いませんよう、お確かめ下さい。お忘れ物はお届けできかねますので、くれぐれも、くれぐれも」
一度見渡して。
それにつづいて揺れが収まった。
「どうぞ、降車の際は必ず足許にお気をつけてお降り下さいませ。ゼロからの皆様、イチからの皆様、皆々様に幸多からんことを、心より、心より、願っております」
完全に開かれた壁の向こうにアフロはおらず、けれども何だか、恐ろしい気もした。
けれど、足が戻ることはない。
何もない首許を触りながら、ひとりで降りる。
身体に空気が入り込んで、喉が疼いてくる。ひどく叫びたい、叫ばざるを得ない。
そんな気分だ。
「――――――ッ‼」
#0からの
2/22/2023, 5:31:10 AM