もうじきホームに電車がやって来る。16時15分発横浜行き。隼斗が乗る電車。
結婚式場を出た時はみんなでわいわい歩いていたのに、学生時代の話に花を咲かせていたら、私たち二人きりになってしまって。
一つしかないホームの、西側が下りで、東側が上り。
スーツでキメて、あの日よりずっと大人びて見えるのに、西日に照らされてまぶしそうな彼の顔は変わっていなくて。
「なんだよ」
「いや、なんかね。十年ぶりに会ったのに、ずっと一緒にいた気がしちゃって」
「十年は十年だよ。俺がウイスキーならとっくに熟成してるわ」
「まずそう」
「まずそうとか言うなっ」
でも、やっぱり目は合わせてはくれない。
卒業式の日に私の気持ちを伝えてから、「ごめん」と断られてから、ずっと。
ひんやりとした風が吹く。
「結婚式、良かったね」
「予定あんの?」
「え?」
「遥香はさ、なんだ、結婚する予定とかってあんの?」
本当のことを言おうとして、でも、少しからかってみたくなった。
「実は付き合ってる人がいまーす」
隼斗が息を呑んだけど、私は気づかないふりをした。
ホームにアナウンスが流れる。間もなく横浜行きの電車がまいります。
電車が走って来る音に負けじと、私は声を張り上げる。
「もうね、ラブラブなんだから! そろそろ一緒になろうか、なーんて」
真っ赤な嘘をついている自分がおかしくて、なんだか涙が出てきて、でも隼斗には見せたくなくて、前髪を直すふりをして。
ホームに電車が滑り込んでくる。私は隼斗の背中を押して、
「ほら、これじゃないと終電間に合わないんでしょ、乗った乗った!」
彼は動かない。こちらをじっと見ているのが分かる。馬鹿だなあ私、振り向かせようとしたのはこっちなのに。
電車のドアが開く。
「行って!」
お願いだから。
発車ベルが鳴る。
「……ごめん」
大きくて温かい手が、私の頬を包む。手が震えていた。
「ごめん、やっぱり俺、遥香のこと」
顔を上げると、隼斗と目が合って、その眼差しから離れられなくなった。
彼が乗るはずだった電車は行ってしまった。
【お題:君と一緒に】
1/7/2024, 4:10:20 AM