かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
ここに都内在住の稲荷子狐が立派な御狐となるために、修行に来ておったのでした。

期間は最短だいたい1年。
初日を楽しく終えた子狐は、
どっどっど、ゴシュゴシュゴシュ。
管理局内を走る機関車風列車に乗って、管理局内に建てられた個室寮に帰ります。

で、何が困ったかと言いますと、すなわち子狐は子供なのです。初めての独りぼっちなのです。
コンコン稲荷子狐、一気にさみしくなりました。

「こわいよ、こわいよ、かかさん!」
くわぁー!くわぁーぁ!ここココンコンコン!!
だあれも居ない、静かな部屋です。
「さびしいよ、さびしいよ、ととさん!」
ここココンコンンコン!ここココンコンンコン!!
途端に子狐、自分が誰にも守ってもらえていない気がして、お母さんとお父さんを呼びます。
よく「狐の鳴き声は実はギャー」と言われますが、
意外と子狐が親狐を呼ぶ叫び声は、ちゃんとコンコンだったりするのです。

「かかさん!ととさん!おじーじ!おばーば!」
ここココンコンンコン!ここココンコンンコン!
子狐は寂しくて寂しくて、だいたい5分か10分くらい、お母さん狐を呼んでおったのでした。

ところでそんな今回のおはなしのお題が、
寂しん坊な子狐にとって幸いなことに、
ちょうど、「たった1つの希望」でして。

「かかさん、かかさん……」
鳴いて吠えて、喉を痛めて、すっかり疲れてしまった稲荷子狐です。
泣き疲れて眠ってしまう、ギリギリの頃合いに、
おやおや、夢か幻でしょうか、
優しそうな声が、子狐を呼ぶのでした。

『おいで おいで こっちだ』

子狐は耳を動かして、鼻を動かして、姿が見えない声の主の場所を探します。
『おいで おいで こっちだ』
悪霊や邪念じゃなさそうです。
稲荷子狐は心魂の匂いが分かるのです。
『さあ ここだ』

コンコンコン、独りぼっちで寂しい子狐にとって、誰だか知らない優しい声は、
まさしく、「たった1つの希望」でした。

『やあ。はじめまして』

ガコン! 個室寮の部屋の壁の、ブロックのひとつが隠し扉であったようです。
隠し通路をトテトテトテ、通って隠し部屋に到着すると、そこはよく整備されたハイテクキッチン。
ふわっとミカン、文旦の香りがする幽霊が、
優しい笑顔をして、子狐を待っておりました。

「おばけだ!」
稲荷子狐は幽霊なんて、怖くありません。
なによりその幽霊、善良な魂の匂い(と食べ物の良い香り)がしておりますので、
間違いなく、子狐に害は加えないのです。
「おばけ!おばけ!」

ああ、自分はもう、独りぼっちじゃない!
間違いなく、隠し部屋に現れたその幽霊は、寂しさ解消に適切な、「たった1つの希望」です。
子狐は一気に寂しさが吹き飛んで、安心しました
が、
そうです、子狐、子供で狐なのです。

『僕は、君の部屋を何年も昔に使っていた、いわば先住民だ。君のk』
「おばけ!おばけ!あそんで!」
『待って。まず話を聞いて。自己紹介させt』
「おばけ!おばけ!」
『やめて噛まないでっていうか幽霊を噛まないd
わぁわぁわぁ、あわうわうあうあ』

ぶんぶんぶんぶんぶん!
元気になったコンコン稲荷子狐は、幽霊が幽霊でありましたので、完全におもちゃにしてしまって、
噛みついて心のままに振りまくって、大満足!
気持ちが落ち着くまでだいたい1時間ほど、幽霊で遊んで遊び疲れて、
そしてぐっすり、眠りました。

子狐が起きた頃には幽霊は消えておって、
文旦の良い香りの痕跡だけが、残っておったとさ。

3/3/2026, 6:46:35 AM