カタカタカタカタ…ジャ、カタカタカタ…カタ。
タイプライターで一文字ずつ、間違えないように紙に打込む。
私は大人に成ってから、この仕事をずっとしている。
毎日、様々な資料を一通り、報告書として纏めてきた。
それが私の仕事。
この仕事を任せられるようになって、もう何年だろうか。
リリリン。
ベルの音、主人の呼び出しだ。
廊下に出るドアとは反対側にある、
上の階に繋がる階段のドアを開けて、螺旋風階段を登る。
私の部屋の真上の階の部屋に、私の主人の部屋がある。
「ヨランダ、この資料を報告書に纏めて欲しいのだけど、
今、大丈夫かしら。」
美しく微笑む淑女、この方が秘書として長年仕えてきた自慢の主人です。
「ソフィ様、お気遣いありがとうございます。
今日は大丈夫ですので、対応させて頂きます。」
「では、お願いします。
急ぎではありませんから、少し休憩を挟んでからで大丈夫ですよ。」
ソフィ様は、お優しく、何でもお見通しのようです。
実は、昼休憩を取れていませんでした。
「ありがとうございます。そうさせて頂きます。」
ソフィ様に一礼して、螺旋風階段を降りる。
ソフィ様から頂いた紅茶を淹れ、遅めランチを頂きます。
少しの至福の時間です。
さあ、仕事に戻りましょう。
私は、タイプライターに指を置く。
隣の資料を見ながら、報告書に纏める。
少々気が遠くなる、地味で変化に乏しい仕事、
しかし、見えない誰かの為の誇らしく素晴らしい仕事。
今日も私は、この仕事を丁寧に正確に最善を尽くす。
見えない誰かの為に。
2/26/2025, 1:22:30 PM