霜月 朔(創作)

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風が運ぶもの




早春の風が吹き抜ける。
春霞の淡い幻に包むように、
俺の頬を、そっと撫でてゆく風は、
微かな、お前の気配を纏っていた。

風が運ぶものは、
お前の幸せそうな笑い声。
淡く揺れるその残響。
そして、
俺の喉の奥に沈む、
名前も付けられない…痛み。

伸ばした指が、
触れられそうで、
触れられない。
その距離に、
俺の心は音を立てて、軋む。

長い間、ずっと。
俺は、遠くから、
お前を見ていた。

俺が立っている場所は、
「親友」という名の、
賭けて失うには、
余りに惜しい境界線。

風は気まぐれに流れてゆき、
俺の足元に枯葉を転がす。
まるで、忘れてしまえと、
静かに囁くように。

けれど、
風が運ぶものを、
誰しも、拒めないように、
この想いを手放すことは、
きっと出来ないだろう。

例え、それが、
進むことも戻ることも、
許されなくなる、
呪いだったとしても。

3/6/2025, 5:00:20 PM