たぬたぬちゃがま

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「テストやばいテストやばいテストやばい助けてお願いなんとかしてお願い赤点むり助けてください。」
「……この間まであんなに余裕ぶってたのはなんだったんだ。」

下校時に半泣きになって「付き合って!」と叫ぶ彼女に不覚にもときめいたのに、着いたところは近所の神社だった。
「ここにはね、学業の神様がいるんだって!!なんとかしてくれるかもしれない!!」
泣きそうな顔で賽銭を投げ、お守りを買い、引いたおみくじは小吉だった。学問の欄は〈腹を括り精進せよ〉の一言が綴られていた。
「長々と祈ってないで、さっさと家帰って勉強しろって意味だと思うぞ。」
「おだまり!!!」
ブツブツと呟きながら赤点は嫌だとまだ祈っている。往生際が悪いにも程がある。

ため息をつきながら自分の分のおみくじを開く。中吉、学問〈普段通りでよい〉。意外と神様は見ているのかもしれない。そう思いながら隣の恋愛の欄を見る。
恋愛〈動けば吉、動かねば凶〉。
「凶は中吉のおみくじに書いていいワードじゃねぇだろ……。」
ガシガシと頭をかく。こちらも腹を括るときのようだ。

「勉強、教えてやるよ。山張ってやる。」
その声に彼女はパァッと明るくなる。すがってくる姿はまるで警戒心皆無のポメラニアンのようで、愛らしい姿に耳が熱くなるのを感じた。
「山が外れても怒るなよ?」
「あんたが山をはずさなきゃいいの!」
すっかり機嫌が良くなった彼女は、神様ありがとう!とニコニコ顔ですっかり赤点回避したつもりでいる。
「動いたんだから、味方してくれよ。神様。」
俺の呟きに、風で揺れた本坪鈴がガランと返事をした。


【願い事】

7/7/2025, 1:51:10 PM