湯船遊作

Open App

また会いましょう

地球から真っ直ぐ、アンドロメダ銀河を抜けてどこまでも。星間1号線に終わりは無い。日々膨張し続ける宇宙と同じスピードで道路は伸び続ける。
終わりない道路の先が見たくて、僕は5年前から軽星間走行車(うちゅうようバイク)に跨っている。
「馬鹿なことを考えるやつだな」
友達の言葉を思い出すには、これまで走った道を双眼鏡で4光年見返さないといけない。もうきっと会えないから、僕は前を見る。
道路を真っ直ぐ横切る道灯の列が見えた。
「交差点か」
星間101号線と唯一の交差点。
交差点には星間走行車のエネルギー補給ステーションがある。僕はエンジンを思い切り吹かして、ステーションに向かった。
「ゴショモウノ サービスハ ナンデスカ」
相変わらず無愛想なロボットだ。
各ステーションには全く同型の補給用ロボットが常駐している。わざと機械音声風に作っているらしく、聞く度なんだか笑ってしまう。
僕はいつも通り光子エネルギーの補充と、1ヶ月分の食料、休憩用にブルーベリージャムベーコンサンドを注文した。
「いい趣味してんじゃん」
背後から声がした。
「ロボ。私にもブルーベリージャムベーコンサンドを頂戴。ベーコンはカリカリにね」
「カシコマリマシタ」
ロボはカウンター奥へ颯爽と抜けていく。
振り向くと、そこには赤毛を肩まで伸ばしたラフな格好の女性がいた。
「誰?」
僕は尋ねた。
「ギンガノ・ワタリドリ」
嘘つけ。偽名だろ。
「キミは? 」
彼女は大袈裟に腕を振って聞いてきた。
「スーツケース・ノ・ワタリドリ」
当然、僕も偽名を名乗る。
「スーツケースって呼んでも?」
「勿論。ギンガノ、でいいよね?」
「もちろん!」
フフフ――…………。
ウフフ――…………。
なぜだか分からないけど、僕と彼女の目的は同じで、お互いそれを察した気がした。
「ギンガノは何処から?」
ギンガノに僕は尋ねる。
「森の星から」
「森の星?」
そう聞くと、彼女は人差し指を口の前に立てた。
「それもそうだね」
「分かってくれて嬉しい」
彼女は寂しげに呟く。
それは別に当たり前のことだった。
僕たち旅人は昔のことをあまり話さない。行き先が帰り道になってしまう気がするから。
「スーツケースはどこから?」
「水の星から」
「……それじゃ分かっちゃうよ?」
「まぁ、いいじゃんか」
「……それもそうだね」
僕と彼女にブルーベリージャムベーコンサンドが届いた。
「いただきます」
手を合わせて一礼する。
「丁寧だね? 」
上目遣いのギンガノ。
「今日は特別だから」
「カッコつけたい相手、いるんだ」
「まぁね」
ウフフ……
彼女も一礼した。どうやら彼女も特別で、カッコつけたい相手がいるらしかった。
「丁寧だね」
僕と彼女は同じタイミングでサンドにかぶりついた。
「なんだ。僕の真似?」
「私の真似でしょう?」
「かもしれないね」
「私も、君の真似な気がしてきた」
「適当言って」
「それがそうでも無いんだよ」
彼女は優しく微笑んだ。
……。
「ギンガノも宇宙の先が見たいの?」
「うん。101号線の先が見たいの」
「そっか」
「スーツケースも?」
「うん。1号線の先が見たくて」
僕は彼女を見なかった。
お互い妥協点は無さそうだ。
なら言えることなんてもうなさそうだ。一緒かはともかく、隣を見ながら目指したかったんだけど。
「ロボ。僕のサンド、ホイルで包んでくれないか」
「カシコマリマシタ」
ロボットは僕のサンドをあっという間に持っていく。ちょっとくらい待ってくれてもいいのに。
「私もそうしようと思ったのに。早いね」
「……」
「……ごめん。言い過ぎちゃった」
彼女は微笑んだ。もちろん、僕も。
「僕も言いすぎても?」
「うん」
「カササギ・ツカサ。本名。ギンガノも、良ければ教えてくれない?」
「……ナギウミ・カモメ」
彼女は視線を下ろして少し考えたあと、はにかんで告げた。
カモメ。あまり知りたくなかった女性。もう二度と会えないだろう彼女に僕は告げる。
「カモメ」
「……なに?」
「また交差点で」
「……うん。また交差点で」

11/13/2023, 2:56:30 PM