滝谷(shui)

Open App

【柔らかな光】

「死んだらさ、どんな人だったと言われたい?」

 人でひしめき合う葬儀場。
 そんな中で、親友が急に言葉にしたセリフに、僕は驚いた。
 葬式に来ただけでも初めてだって言うのに、緊張してる僕にそんなことを聞かれても。

「え、考えたことない」
「だよな、俺も」

 親友が僕を見て笑う。黒い学ラン姿は中学校でいつも見るのと同じもので、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
 
 僕の初めて参列した葬式は、近所の駄菓子屋のおばちゃんとのお別れの日だった。
 小学校に上がる前からお世話になった、身近な大人だ。

 お菓子を買うとおまけをくれて。
 悲しいことがあると話を聞いてくれて。
 褒められたと自慢すれば、しわしわの顔で笑って一緒に喜んでくれた。
 ……もっと長生きすると思っていたのにな。
 がやがやと雑談する周りを見渡してから、僕は親友を肘でこづいた。

「なんだよ、変な質問してさ」
「変じゃないよ。さっき、おじさんが話をてたじゃん。駄菓子屋のおばあちゃんの息子だって」
「ああ、あの人」
「母は誰よりも子供に優しかった、ってさ。話を聞いた時に、ほんとだなーって感じてさ。
 俺もそんな言葉、誰かに言ってもらえたら良いなーとか思っちゃって」

 親友が指で頬をかいた。
 もちろん、僕も親友も死ぬ予定なんかない。
 ただ、誰かに『あいつは良い奴だった』なんて思われてみたい……そんな親友の気持ちは、僕にとっては不思議な感覚だった。

 そうなんだ、みたいな。
 うまく言葉にできないけど。僕にはない不思議な気持ち。

 そんな話をしていて、線香を上げる番が回って来た。
 見様見真似で最後の挨拶を終えると、亡くなったおばあちゃんの顔が見えた。
 柔らかな光を浴びて、幸せそうに昼寝をしている時にそっくりの顔。

 それをみて、なんとなく。
 なんとなく。
 僕も、少し羨ましい気持ちがした。

10/17/2023, 10:00:42 AM