《あなたへの贈り物》
「うーむ、一体どうしたものか……」
「失礼しまーす、……ってあれ、珍しいこともあるもんですねぇ」
ある日の放課後、僕、紅野龍希が部活をしようと格技室に入ると、珍しいことに同じクラスで主将の蒼戒くんが素振りもせず何やら考え込んでいた。まあ彼は主将でありながら生徒会男子副会長でもあるし何かと悩みが尽きないんだろうな……。
「ん、ああ紅野か」
邪魔しないようにそそくさと更衣室に退散しようと思ったら蒼戒くんに気付かれてしまった。
「あ、蒼戒くん……、すみません、邪魔しましたね」
「いや別に。それより早く着替えてこい。さっさと始めるぞ」
「あ、はいわかりましたー」
そう言って着替えに行こうとすると、ちょうど更衣室から誰か出てきた。
「あれ齋藤ー、お前まだ考え事してたの? というか何を考え込んでるの?」
隣のクラスで副主将の東堂くんだ。結構ノリがいい性格だが、さっぱりしているため蒼戒くんとも仲がいい。
「東堂か。お前いつからいた?」
「結構前から。一応声はかけたんだよ? ちなみにお前がなんか言ってるのも聞こえてた」
「東堂、お前のこれからの身の振り方次第では今すぐ叩き斬る」
「おー怖いねー、さすが主将」
「斬られたいのか?」
「いやいやそんな滅相もない。でもうちの鬼主将が彼女へのプレゼントで悩んでるとは泣けてくるねー」
「東堂お前やっぱり今すぐ斬る」
「あ、なるほどなるほど。もうすぐ熊山さんの誕生日ですもんねー」
蒼戒くんが同じクラスで空手部主将の熊山明里さんと付き合い始めたという噂は記憶に新しい。本当かどんかは怪しいが、ハルたちいわくどうやら本当らしい。
「紅野、お前も斬られるか?」
「ひえー、す、すみません……」
軽く脅されて僕は口をつぐむ。
「とはいえまだ決まってないんでしょ? いっそのこと直接本人に聞いてみたら?」
さっきまで本気で斬られかけてたのにケロッとした顔で言う東堂くん。やっぱこの人図太いな……。
「いやしかし……って東堂お前!!」
蒼戒くんは何やら顔を真っ赤にして竹刀を持ち、東堂くんに斬りかかる。いやー、蒼戒くんの赤面とは珍しいものを見た。
「あははっ、せっかくだから2人でどっか行ってきたらー?」
一方蒼戒くんの竹刀をひらりと避けて笑う東堂くん。
「うるさいぞ東堂!」
「いーじゃんいーじゃん。ちなみに俺は最近できたプラネタリウムがおすすめ」
「黙れ東堂! 紅野はさっさと着替えて来い! 今日一年は来ないしさっさと始めるぞ!」
「あ、はーい」
僕はそう言って素直に着替えに行く。
それにしても蒼戒くん、熊山さんのこと大好きなんだな……。素振りも忘れて考え込んでしまうくらいには。
ちなみに僕が袴に着替えている間にも蒼戒くんと東堂くんの言い合いは続き、最終的に防具をつけた本気モードになっていた。
結局蒼戒くんが熊山さんに何をプレゼントしたのかは、本人たちしか知らない。
(おわり)
※明里×蒼戒 未来if
2025.1.22《あなたへの贈り物》
1/23/2025, 9:41:53 AM