その日初めて、城の外に出ることを許された。
と言ってもあまり遠くへ行ってはいけない、特に“上”は駄目だと厳命された。
けれど私はきっと、浮かれていたのだと思う。城の周囲を駆け回って、魚達とお喋りして、遊び疲れて息をついて、ふと上を見てしまったのだ。
「――」
それは初めて見る光景だった。
ゆらゆら揺れる丸く切り取られた窓に、金色の光が広がっている。私はひと目で心を奪われてしまって、しばらくそこから動けなかった。
金色の光をじっと見ていると、他の色も次々に目に飛び込んできた。
一際強く輝く青い光、そこに寄り添う少し沈んだ白い輝き。赤く鋭い光に、銀の帯。薄緑の淡い輝きに、昏く鈍い鉄の光……。
初めて見る色の氾濫に呆然としていると、不意に腕を強く引かれた。
「上は駄目だと言ったでしょう」
今まで見た事無いほど、それは厳しい顔だった。
「ごめんなさい。でも、とても綺麗で……あれは、あれが、地上なんですか?」
私の問いには答えず、彼女は私の手を取ると城へ戻るよう促した。
「もう少ししたら貴方はあちらに行くことになるから」
「あちら?」
「まだ少し早いわ。その時までもう少し待ちなさい」
「はい」
私は頷いて、彼女と共に歩き出す。
彼女の言葉はいつだって間違っていたことなど無いのだから。でも、それでも……。
城の扉をくぐる寸前、私はもう一度だけ振り向いて上を見た。
「――」
丸く切り取られた窓から金色の、優しく強い光が降り注いでいる。
それが太陽の光だと知ったのは、ずっと後のことだった。
END
11/25/2023, 3:05:16 PM