ティーカップの取手を無意味になぞって正面に座った相手に小首をかしげて見せた。多少の意地悪くらい許されて然るべきだ、という意思表示。
いや、そもそも互いのことを許す許さないの関係でもないのだけれど。怒りも、悲しみも、苛立ちだって互いに抱くにしても、失望という感情は遠すぎる。
期待も、裏切りも、誤解すらない。ただお互いに有り、許容するだけの関係だ。
この茶葉だとて、自分の好みでだけ淹れたものだけど、関係なんてない。嫌いなら飲まなければいいだけだ。それでも相手も好いているのを知っている。聞いたことはないけれど。
その証拠に、二杯目を手ずからカップへ注いでいた。
常から考えれば、やや粗雑な所作であるのが苛立ちが見て取れて、隠すことなくほくそ笑む。
自分はそれだけの時間待ったのだもの。
何も思われなかったらそれこそ報われない。
肩口で髪の毛を揺らす。見た目がもたらす印象というのは、視覚優位の人間にはとても有効だ。
そう自分は世界に作られたのだから。道化役のストーリーテラー。
もう一人、同じ役目を持っている相手くらい、筋道をめちゃくちゃにして揶揄う程度、可愛いものだろうに。
伏せ目がちに卓上に目を落としている相手は気分を落ち着けているようだ。そんなつまらないことをしなくでくれよ。
行儀悪く足を組んで肘をつく。カツカツ、ティーテーブルの表面を爪先で二回叩いた。
目線が向いたことに、その瞳の強さに背中がゾクゾクと震える。
隠していたからといって自分と相手のこれからは何も変わらないだろうと、事実をそのまま告げる。
そうだけれど、感情は別物だ、と眉を顰めて返された。
それを知っているからずっと言わなかったんだ。ばーか。
満面の笑顔を返してやった。
7/13/2024, 9:48:33 AM