ミミッキュ

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"「ごめんね」"

 この前見つけたバグスターの攻略会議が、普段より長引いてしまった。原因は、目撃情報があった時間やポイントが不規則で時間がかかったから。
 多少の不規則は誤差の範囲内だ。だがそんなもんじゃなかった。
 目撃された日付が二日連続だったり、一日や二日程間が空いていたり。場所も比較的広範囲で、海が見渡せる港にいたのに次の情報では木々が鬱蒼とした山だったり。
 なんとか行動原理が分かったが皆相当消耗してしまい、作戦については明日となった。
 一日でも早く倒さなくてはいけないが、正直助かった。何時間もスコープを掲げていた為、前腕が怠い。
 昼休憩に入るのがいつもより遅くなってしまったので、ハナが腹を空かせているに違いない。もしかしたら開けた瞬間飛びかかって大声で鳴き叫ぶかもしれない。
「悪ぃ、遅れた」
 警戒しながら扉をゆっくり開く。
「みぃ〜ん……」
 すると、思いもよらぬ声が帰ってきた。
 驚きながらも室内を見渡すと、机の上に置いていたプラスチック製のコップが床に落ちていた。
 一瞬ドキリとしたが、辺りに飲み物が広がっていないのを見て最後に居室を出る前、中に入れていた牛乳を飲み干してから出たのを思い出し胸を撫で下ろす。
 ハナがこの態度なのは、おそらく机の上の物を落とそうとすると俺がいつも叱っているからだろう。
 こいつに《悪い事をしたら謝る》事を教えていないはずなのに、先程の鳴き声が明らかに『ごめん』と言っている声だった。
──ちゃんと謝れて偉いけど、一体どこで教わってきたんだ。
「怒ってねぇよ。それより怪我してねぇか?」
 ハナを両手で掲げて、全身をくまなくチェックする。血が出ていたり、毛並みが変わっている箇所は見当たらなかった。ゆっくり床に下ろす。
「ちゃんと謝れて偉いな」
 そう言ってハナの頭を優しく撫でる。嬉しそうに目を閉じた。
「飯用意して来っから大人しく待ってろよ」
「みゃあん」
 立ち上がって居室を出る。
──もし『悪い事して謝ったら褒められる。かまってもらえる』って覚えて、また同じ事したらどうしよう。
 そんな事を考えながら、台所へ向かった。

5/29/2024, 11:54:11 AM