【好きじゃないのに】*BL *グロテスクな表現があります
甘いお菓子が好き。それもとびっきり可愛く飾りつけられたやつ。
ホイップクリームで丁寧に飾りつけられたデコレーションたっぷりのショートケーキ。苺がナパージュされてつやつやで、スポンジもふっくらしているのがいい。フォークを入れたらさっくり切れて、口の中で生クリームと苺がほどけるような。
オペラも大好き。つやつやのチョコレートの表面を見ているだけで心が躍る。ビターなクリームと甘味控えめのスポンジ、金粉やショコラリーフを乗せて、粉砂糖で飾り付け。コーヒーに併せて鼻を通り抜ける香りを楽しむのがいい。
チェリーパイも素敵。チェリーフィリングをたっぷり乗せたパイ生地の上に、網目のパイ生地が乗ってると見た目も最高。底はパイ生地厚め、フィリングはちょっとアルコールの香りがするくらいでいい。甘酸っぱいジャム状のそれを敷き詰めた上に、果実の形が残ったのを乗せてあるとテンションが上がる。咀嚼で皮が弾ける食感は最高だ。
「……まぁ、わかったよ、だからそんなに落ち込むなよ」
目の前にあるのは全く最高ではない景色だ。
飛び散る血潮や内臓はグロテスクの一言に尽きるし、砕けた骨や破れた皮膚には洒落たところなんて一つもない。最悪なことに、それをやったのは自分自身であり、今はそれを口に運ぶ手が止まらない。本当に一番最悪なのは、その肉がとろける食感が素晴らしく、血潮の臭いが酩酊を引き起こしそうなくらい悦いということだ。一欠片も美しくない、どこをとっても甘くない、自分とよく似た生き物の死体を貪っている。
「だぁって〜……全然オシャレじゃないよこれ〜……」
べそでもかきそうな鼻声でぼやきながら、咀嚼は止まらない。
人の社会の中に溶け込みながら、人の子供として育てられて、成人するころに本性としての食性が顕在化する生き物。それが彼らだった。そんなこと知らずに育った伊黒はすっかりしょげて大きな耳を後ろに倒し、前に伸びた顎でゴリゴリと骨を齧っている。一方、隣でそれを見ている紫堂はそれを眺めているだけだ。飛び散った血飛沫を気にした様子もなく、じっと伊黒の食事を眺めている。
「ちゃんと食い終わったら、お前の言ってたケーキ買ってきてやるから」
「ホント? ホントのホント? 約束してよ」
子供っぽくはしゃいで見せるが、人の頭を一掴みできそうなほど大きな手の中には、引きちぎられた脹脛が、まるで遊園地の食べ歩きフードのように握られている。
「ホントホント。残さず食いな」
「うぇ〜……はぁ〜あ……こんな可愛くない食べ物、好きじゃないのになぁ……」
ごり、むしゃ、と骨ごと肉をしゃぶっている口元を見て、紫堂はぶるっと身震いした。彼の、この定期的に行われる食事が紫堂にとっては堪らない。元より消したい人間をどうにかする仕事をしていたことも相まって、一石二鳥だ。
「いいから。ちゃんと食べたら二ヶ月くらいもつだろ」
「……だね、シドちゃんに毎回ご遺体とか食べていいの、手配してもらってるし、我慢期間延ばさないと」
デザイナーとしてそれなりの腕を持つ伊黒が、飢えのあまり正気を失い、本当にたまたま紫堂のターゲットを食ってしまったのがもう二年前。自身の体質を知らなかった伊黒を捕らえ、それが実しやかに囁かれる、都市伝説的な存在だと知って、利用するつもりで関係を持った。それから紫堂は自分に回ってくる仕事の死体を伊黒に回している。普段はどうみても普通の人間なのに、飢えてくると……普通の食事で満たせなくなってくると、異形の獣と化した。それが人を、文字通り食っているところを見るのが、紫堂には何にも代え難い娯楽なのだ。
「伊黒」
顔を上げる。獣じみた顔になっても、ぱっちりとした目元は変わらない。
「ちゃんと可愛いよ」
「ん〜……ふふふふふ〜!」
3/26/2026, 3:17:14 AM