本当はいつだって言いたかった。
「あんたのせいで慰謝料貰えなかったけど、あんたがいたら再婚もできないもんね」
母が慰謝料の放棄と引き換えに、父に自分を押し付けて出て行ったときも。
「まったく、面倒なものを置いていきやがって。金だけは出してやるが、迷惑はかけるなよ」
父が自分を放置して、不倫相手と築いた新しい家族の元へ通っていくときも。
「先生はここまで。おうちでお父さんのこと待っててね」
体調不良で早退することになり、家まで送り届けてくれた保健医が帰ってしまうときも。
誰にも言うことのできなかった願いは、決して叶うことはない。
今まで彼女を幾度となく乗せた車の中。彼女にはバレてしまったけれど、彼女の前では控えていた煙草に火をつける。
「逝かないで、ほしかった」
もう届くことのない願いが弱々しく響いた。
10/25/2023, 12:04:30 PM