10
電話を切った後の部屋の静寂が嫌いだ。
毎日大体22:30頃から通話し始め、約1時間後に終える。
そうなると既に深夜とも言っていい時間帯となっており、住宅街の一角に建つこのマンション周辺はシンと静まり返る。
元々、俺は騒がしい場所は好きではない。
だが―――
「お前が騒がし過ぎるせいだな」
枕元に置いたスマホを眺めながら俺はぽつりとそう呟いた。
『あぁ?何だよいきなり』
スピーカーモードにしているせいか、男の騒がしい声もなお一層ボリュームを増している気がする。
「…何でもない。気にするな」
『気にするなって言われてもな………あっ!そうかそうか…分かったぜ…!!』
随分得意げな声で男は電話の向こう側からそう言った。
『さてはお前、俺と電話切るの寂しいんだろ。
そうだよな、分かるぜお前の気持ち…!!俺のボイスって太陽みたいなもんだもんな。太陽沈む時、寂しいもんな!!!』
そう言って男は深夜だというのに元気良く高笑いした。
本当に調子の良い男である。
「お前のその元気はいつもどこから来るんだ、全く」
『お、否定しねーのな。やっぱ寂しいって思ってくれてんのか?お??』
「煩い黙れ。調子に乗るな」
『ったく厳しいねえ。素直じゃねえんだから』
男は残念そうにそう言うと少し間を置き、軽く咳払いした。
『…俺の元気の元はな、勿論この毎日の電話に決まってるだろ』
言わせんなよ、と男は柄にもなく小さい声でそう呟く。
「………ふ」
『あっ!お前今笑ったろ!?くそ、せっかく人が気持ちを伝えたっつーのに…!』
「笑ってない。ただ…そうだな……うむ」
こそばゆい感じがして上手く言い表せない。
―――だが。
「………なあ」
『ん?どうした?』
俺はふう、と一呼吸置いてから口を開いた。
「今日は、もう少しこのままでいてくれないか。眠りにつくまで……もう少し……このままで」
まだ、今は、今日を、この時間を、終わらせたくないから。
だから今日はこのまま、一日を終わらせるさよならは言わないで。
『……お前、ほんとそういうところズルいよな』
「…煩い」
俺は口元を緩めながらそう言うとそっと目を閉じた。
12/3/2024, 5:06:15 PM