その懐中時計は壊れていた。
ガラスはひび割れ、黒の針は沈黙を続けている。耳を澄ませても、僅かにも音は聞こえない。
「どうして、壊れた時計を持っているの?」
幼子の問いかけに、青年は微笑み答えた。
「いつか、必要になる時が来るからだよ」
首を傾げる幼子の頭を優しく撫でながら、時を止めた懐中時計に視線を落とす。
「僕の時間を必要とする誰かが現れた時、時計はまた動いてくれるんだ」
穏やかに、残酷に。
青年は幼子に向けて語る。
その微笑みは慈しみに満ちて、幼子の目には何故か泣いているように見えていた。
11/25/2025, 9:40:20 AM