「終わらない問い」
午前三時。
微睡んでは覚め、また微睡んでは覚めを繰り返すある日の夜。
私は眠ることを諦め、ただ横たわったまま朝が来るのを待っていた。
小夜時雨が窓を濡らす音だけが部屋を満たす、静かな夜だった。
こんな夜ほど、いつにも増して忘れていたことを取り留めもなく思い出すものだ。
どれだけ彩られた日々を過ごしてきたとしても、いつかは遠花火の残響のように殆どのことは忘れ去ってしまうものだけれど。
でも、大切なことだけは、昨日のことのように思い出してしまうものでもある。
戻れはしないのに。ただ、いたずらにノスタルジーを掻き立て感情を揺らす、甘暗い過去の残映。
もう同じ世界にいない、大切な人の冷たい温もり。
私はその幻日のような全てを抱き締めるように布団の中で身体を丸め、後悔と闘うように終わらない問いを繰り返しては打ち消し、ただ雨の降る音に身を委ねようと努め続けながらひとりの夜を過ごしていた。
そうしているうちに、気が付くと窓の外は明るくなり始めていた。
相変わらず降り続く雨と寝不足が寄越した気だるさを背中に背負いながら、私は日課のコーヒーを入れる為にゆっくりとベッドから起き上がった。
私はあと何年、何十年先も、眠れぬ夜の度に終わらない問いを繰り返して過ごしていくのだろうか。
そんな憂いを吹き消すように、薄明かりの射し込むカーテンを引いて窓を開け、秋の寒空を部屋に招き入れた。
時折、雨の匂いが混じる風が吹きこむ中、まだ熱いコーヒーを少しずつ飲みながら、窓の外の変わらない景色を眺める。
私はまた新しい朝を迎え、訪れた今日を生きていく。
10/26/2025, 2:40:48 PM