日向

Open App

暗闇に一つ、光が灯った。
下ろされた*御簾(みす)の奥でゆらゆら揺れる灯火は四人の男の顔を照らす。
年長の男、切れ長の目の男、気弱そうな男、仏頂面の男。彼らは四方に腰を下ろし、中央に向かい合う形で並んでいた。

「知ってはいると思うが、先日*御上がお隠れになった」

年長の男が淡々と述べた。しかし、その言葉には重みがあり、一室の空気がズシンと沈む。

「困ったねえ。親王様は幼くあられ、ご即位されるにはまだ早い」
「正しくは親王様“方“だ。言葉に気をつけろ」

重々しい空気の中、軽く口にする切れ長の目の男の言葉を、すぐさま咎めたのは仏頂面の男。向かい合って座る彼らの間にバチバチ火花が散ったところで、気弱そうな男が割り込む。

「まあまあ、落ち着いて」
「お前たちは若いときからよくもまあ……相変わらずだな」

溜息を吐きながら、やれやれと首を横に振る。

「ともかく。用意が整うまで、我々で*政を執り行う」

年長の男は盃を顔の前に掲げた。
それにならうように、他の三人も盃を上げる。

「この国の未来のため、尽力しよう」

盃に注がれた酒は、すぐさま彼らの喉の奥へ消えていった。

そのころ、黒雲に隠れていた月がやっと顔を出した。
月影に照らされて、*御所を囲む藤の花がキラキラ輝く。

藤の甘い芳香に潜む灯火の匂いは、誰に気づかれることなく御所を駆け抜けた。

秘密裏に行われた月夜の会合はまだまだ終焉を迎えることはなく、これは序章に過ぎなかった。


ーーーーー
*御簾(みす)簾を敬っていう語。
*御上(おかみ)天皇を敬っていう語。
*政(まつりごと)主権者が領土・臣民を統治すること。政治。
*御所(ごしょ)主に天皇など特に位の高い貴人の邸宅。

3/17/2025, 9:55:17 AM