ゆかぽんたす

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「心理テストね」
部活の休憩時間中、隣でポカリを飲みながら葵ちゃんが言った。
「空を見上げて一番最初に心の中に浮かんだのは誰か想像して」
「うん」
「実はその人は……あなたにとっての運命の人でーす」
私の返事の後、数秒間待ってから再び葵ちゃんが嬉しそうに言った。そんなことだろうと、思った。
「これね、今月号の中に書いてあった。あとで貸すね」
葵ちゃんがお気に入りのティーン雑誌。ファッションとか恋愛のことが書いてあって、クラスの女子ほとんどが知っている。葵ちゃんは私にも貸してくれるけれど、私は別にみんなのようには感動しなかった。それでも、申し訳ないと思って毎回貸してくれるのを断らない。
「でもね、当たってると思ったんだあ、これ。だって私、燈矢先輩のこと思い浮かべちゃったから」
にこにこ、でもちょっと照れながら葵ちゃんが言う。そして、同じ体育館の中にいるバスケ部の方に目を向けた。葵ちゃんの口から出た名前の人がちょうどスリーポイントシュートを決めたところだった。
「やっぱかっこいいなあ」
葵ちゃんがため息混じりに呟く。漫画の世界だったら、目はもうハートマークになっていると思う。先輩が動き回る様子を目で追っては、かっこいいを繰り返す葵ちゃん。恋する女子の顔だ。私は、こんなふうに素直に感情をぶつけられない。そこは羨ましいと思う。
「ね、菜摘は誰を思い浮かべたの?さっきの心理テスト」
「私は……、お父さん」
「えーうそ!何それウケる!」
私の答えを聞いて、葵ちゃんは手を叩いて笑い出す。
「じゃー菜摘の運命の人はお父さんになっちゃうじゃん」
「そういうことになっちゃうね」
「なんだーっ、この心理テストあんまり当たらないのかなあ」
さすがに言えなかった。くりっとした可愛らしい目を向けられて、葵ちゃんの気持ちを知ってるのに、本当のことなんて言えるわけがない。
葵ちゃんが再びバスケ部のほうに視線を戻した。でも、私たちの部長が集合の合図をかけたので集まるべく走り出す。私も葵ちゃんの後を追った。追いながら、バスケ部を見た。燈矢先輩が私を見ていた。こっそりと、私に手を振る。私も、前を走る友達に気づかれないように、そっと手を振り返した。

いつかは、バレるのかもしれないけれど、まだできるのならば隠していたい。それが葵ちゃんの為になるだなんて、そんな上から目線な考えはしないけれど。

まだ私には、友情を壊す勇気がない。

7/16/2023, 12:49:31 PM