Morris

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「足元に気をつけて」

風に乗って漂う香りに誘われて足を踏み入れれば、一面に広がる無数の青に圧倒される。

「この青は、私の生涯の一つなんだ」

私の手を引きながら、彼はそう語る。
青いバラは自然に存在しない。青と言っても淡い色が主流な中で、宵のように深いこの青を咲かせるまでに、どれほどの時間を掛けたのだろう。
優しく包んでくれる彼の手には無数の傷があった。普段は手袋をしていて見ることはできないが、こうやって間近で見られるのは自分だけだと思うと、胸が熱くなる。

「君がいなければ、成し得ないことだった」

彼が立ち止まる。

「満足してくれたかな。君に合うように、深い青になるまで重ねてきたんだ」

淡い青は途中で咲いたものだろう。
段々と青に近付けていく過程との中に、彼の執念が垣間見える。

「これも見てくれないか」

彼が示した先に、黒い薔薇が咲いていた。特定の場所でしか咲くことがないため、青とは違った意味で珍しい色だ。

「あれは……虹?こっちはチェスみたい」
「そこまで見てくれたんだ。装飾もこだわったから、とても嬉しいよ」

ふにゃりと笑う彼に、思わず可愛いと口にしてしまった。あまりからかうんじゃない、と怒られてしまう。

「はぁ……全く、かわいいだなんて」
「えへへ」
「君には敵わないよ」


お題
「色とりどり」

1/9/2023, 9:59:18 AM