笛闘紳士(てきとうしんし)

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その小学校は校舎の老朽化と少子化の影響で、来年には閉校となる事が決まっていて、その小学校に通う生徒達は、来年からは隣町にある小学校へとバスで通う事になっている。そんな廃校目前の小学校の野球チーム最後の大会に、新聞社のスポーツ部門で働く、入社1年目の私は密着取材し、その記録を残す事になった。


カーナビを頼りに目的の小学校まで辿り着くと、その小学校のグラウンドに、少年野球チームのコーチの怒声が響いていた

「ボケっとしてんな!終わったら早よぅ、球拾いに行け」
「はい」

今は大会目前と言う事もあって、コーチの指導にも普段以上の熱が入っていると、児童の保護者の方は私に教えてくれた。

「よし、10分休憩するぞ。しっかり水分補給しとけ」
「はい」

子供達は嬉しそうに屋根下のベンチに座って、美味しそうにドリンクを飲んでいた。休憩中の子供達の表情は、練習中の気迫なんて感じられない程に無邪気だった。

休憩中、何人かの子供がコーチにアドバイスを貰いにコーチの所へと駆けて行く。それに対してコーチは子供達にも分かりやすい様に、丁寧に指導をしていた

休憩が終われば再びコーチの怒声が小学校のグラウンドに響く
それでも子供達は誰もコーチに反抗する事なく、汗を流しながらも練習を重ねる
 だけど、汗をかいているのは子供達だけでなくコーチも同じだった。全員、汗だくになりながら同じ目標に向かって頑張っている。そこに大人も子供も男子も女子も関係無かった。

それから1時間程した時だっただろうか?コーチが練習の総括を述べて練習終了となった。練習の時は怖いコーチだけど、練習が終われば優しいおじさんの様な人。私の取材にも気さくに答えてくれた。それから私は何度かその小学生チームの取材を続け、子供達とも次第に仲良くなってきた。


そしていよいよ大会本番がやってきた。けれど、試合とは時に目を背けたくなる程に残酷なドラマを作る。
彼らの初戦の対戦相手は過去に何度も大会で優勝している強豪チーム。3回裏終了の時点で10点以上の差がついていて、私が取材したチームのコールド負けは確定していた。そんな中でもベンチではチームメイトとコーチが選手に対して、1回表から大きな声で声援を送っていた。そんな彼らの声は最早枯れていた。それでも、負けると分かっていても皆んなで声援を送り続けた。その熱意に、客席から見ていた私は自然と涙が溢れて止まらなかった。そしてコールドゲーム。
彼らは対戦相手の前で、枯れた声で悔し涙を流していた。

※この物語はフィクションです

声が枯れるまで 作:笛闘紳士(てきとうしんし)

10/21/2024, 1:26:56 PM