銀時計

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『あの夢のつづきを』未完10/463
その日、夜が明けた。
空を覆う闇が打ち払われ、穏やかな光が大地を照らす。
ある勇者が魔王を倒したことに人々が気付くには、そう時間を要さなかっただろう。
各国で歓喜の声が上がり、涙を流し、勇者を賞賛した。
道中勇者が立ち寄った国、救った村、希望を与えられた人々は、凱旋する勇者を祝福しようと待ちわびていた。

しかし、彼は現れなかった。

日は流れ、ある王国の謁見の間にて。
「おお!よくぞ帰ってきた、待ちわびておったぞ。
 魔王討伐、まことに見事であった!
 国を、いや、世界を代表して感謝しよう!」
「は…」
「そう畏まらなくともよい。其方は世界の英雄だ。
 …そうであったな。其方は世界を救った。
 どれほどの財宝もその功績には値しないとは分かって
 おるが…其方、何か望むものはあるか?
 儂が、世界が実現できるものは何でも叶えよう。」
「…身の丈に合わぬ物は望みません。道中で馬が傷付い
 てしまったので、新しい馬と鞍を、そして幾らかの旅 
 費を頂ければそれ以上のことはありません。」
「まこと、欲の無い男であるな。相分かった、明日には手配しよう。それまではこの街で羽を休めるがよい。」
「は…」
「…」
「…それにしても…いやはや、未だに夢を見ておるよう
 だ。儂が目の視える内に、再びこの澄み渡る青空を仰
 ぐことができるとは。」
「…のう、其方はそう思うであろう?」
「…本当に。夢のようでございます。」
「そうか…長話をしたな。下がってよいぞ。」
「は…失礼します。」

「のう…夢か現か、其方の目にはどちらが映るのか…」

1/12/2025, 12:50:53 PM