「私も愛してるの、なんて言うと思った!?」
背中に強い衝撃が走り、視界が急に回る。なにもできないまま、憎悪で支配された表情の「恋人」が、見上げた先に君臨していた。
「家族をめちゃくちゃにした男に私が本気で惚れるとでも思ってた? あるわけないじゃない!」
未だに働かない頭の片隅で、必死に封じ込めた記憶が頭をもたげる。まさか、彼女は……?
「ようやく思い出したみたいね……最後の最後まで憎ませてくれて、ありがたいわ」
身体を起こしたくとも肩口にヒールの先をねじ込まれて叶わず、声もショックが大きすぎて出せない。
あのときは本当に馬鹿だった。若気の至りではすまされない。でも正面から向き合う勇気が持てなくて、一番取ってはならない方法で無理やり終わらせてしまった。――自分だけの、中では。
「怖い? でも安心して、愛しの私がちゃあんと幕引きしてあげる」
気味が悪いほどの柔らかな笑みを浮かべると口内になにかを突っ込んできた。
まさか。
「それ」に歯が当たってがちがちと耳障りな音が響く。彼女から表情が消えたのも、全身まで及んだ震えを増長させていた。
本気なんだ。
言い訳も命乞いの暇も与えてくれないほど、本気で。
「本気で愛した女の手で地獄に落ちるだけ、幸せだと思いなさい?」
二人で笑い合った日々が脳裏を駆け巡る。全部、偽物の笑顔だった。自分だけがみじめに踊り続けていたんだ。
「それじゃあね。死ぬほど愛おしい、死神さん」
お題:I LOVE...
1/29/2023, 5:14:39 PM