▶79.「手のひらの宇宙」
78.「風のいたずら」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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人形たちの知らない物語
『ワルツ』は透明な涙を媒介にすると術式が見えるようになる。
それが分かった____は、まず仮眠を取り、それから仲間が来る前に、ひとまず全員に行き渡る分だけ人工涙を作っておいた。
「これが王の作った術式か…」
誰もが言葉を失っていた。
それほどまでに、角膜に投与した人工涙を通して見る『ワルツ』は、
見事な出来映えだった。
とても技術を悪用するような人間が作ったとは思えない。
繊細で、緻密で、
いくつもの術のコアが同心円状に回り、
さながら手のひらの宇宙を見ているようだ。
____も、しばし敵が作ったものであることも忘れて見入っていた。
やがて、涙が吸収されて術式は見えなくなった。
「おい、どうした?大丈夫か?」
声を掛けられて、やっと我に返る。
「いや、すまない。大丈夫だ」
「それならいいんだが。あれだけのもの、悪いが見えたところで俺達には無理だ。必要なものがあれば言ってくれ。人工涙もいくらでも作る」
「ああ…それじゃあ早速頼むよ。後はここより少なくなったら作り足してくれ」
「わかった」
平静を装い会話をしつつも、彼は驚愕の渦に巻き込まれていた。
(これを、作るのか?私が?……いや、やるしかないんだ)
できなければ、あの王を倒せない。
「…よし、やるぞ」
残りわずかな人工涙を再投与し、彼は作業に取り掛かった。
1/19/2025, 8:04:31 AM