はるまき

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『英雄のその後』

「好き嫌いをするのは良くないよ」
 君はポテトサラダの付け合わせのミニトマトを摘み僕の口元に無理やり押し付けてくる。
「なんで普通のトマトは平気なのにミニトマトはだめなの?」
「なんでだろう、なんかトマトの味が濃い気がして」
なんとなくはぐらかして答えたけど答えなんてない。
「こうして野菜嫌いの君のために一生懸命作ってるっていうのに」
「おかげでだいぶ克服できたよね」
 本当は全部苦い思いをして飲み込んでるのはナイショだ。
「でもさ、こうやって君の嫌いなミニトマトを無理やりあーんってできる日常ってのも悪くないよね」
 そう、僕らが戦って勝ち取った平和の上でこの日常が展開している。だから僕は、好き嫌いを言ってパートナーに甘えられる生活が愛おしいんだ。
 窓の外を見ると瓦礫が積み上がりそこらじゅうで煙が燻っているのが見える。激しい戦闘を洗い流すほどの大量の降雨。それでも消えない燻り。
 いつしか雨は止んで瓦礫と瓦礫の間に虹が掛かった。
 月日が流れ、避難していた人々たちが再起して復興が進んだ。
 僕はそれを見るのが好きだ。人間には可能性があるって示してくれるから。
 側には共に戦ったパートナー。そりゃ少しは好き嫌いのわがまま、許してくれるよね。
 結局僕は残せなかったミニトマトを頬張り青臭い余韻を楽しんだ。

#好き嫌い


6/13/2024, 7:24:24 AM