せつか

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「久しぶり。元気だった?」
キラキラと光が舞い降りて。
夜の甲板はそこだけ舞台のようだった。

現実離れした光景に俺は声を失う。
現れたあの人は困ったように眉を寄せたまま、小さく首を傾げて笑っていた。
「――なんで?」
「なんでって、ご挨拶だね。いっつも寂しいって言いながら会いに来てくれてたから、たまにはこっちから、って·····」
言いながら顔を真っ赤に染めたあの人は、ほんの少し窶れて見えた。

一歩、二歩。
近付いてくるあの人の、少しゆったりした歩み。
コツ、コツ、と硬い靴音が静寂の中響く。
「軽い気持ちで、夜の散歩と洒落込んだだけ、なのに·····」
「軽い気持ちで来れる距離じゃないよ」
手を伸ばし、抱き締める。
やっぱり少し細くなった。
「帰らなきゃ」
「帰さない」
抱き締めた腕に力を込めた。

「俺のせいにしていいよ」
「·····」
「俺を利用していい」
「·····」
囁き声で俺の名を呼ぶ声の、甘さの理由はもう分かっている。

「もう俺のものだ」
――俺があなたのものであるように。


END


「夜空を越えて」

12/11/2025, 11:54:53 AM