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昔、大親友に告白された事があった。
今ほど同性愛がコンテンツ化していなかった時代、彼女は私にとって奇特であり、異常であり、ユダであった。卒業式の日の桜の仄白さと、拒絶後の彼女の顔色は同じだったと思う。順当に縁は切れ、私達は素知らぬ顔で大人になった。何も無かったかのように、今年も春が来て――。

「はがき?」
「ええ。昔よく来てた……何だったかしら? リカ? リノ?」
母親の呟く名前は一文字も掠ってはいなかったが、私に彼女の姿を想起させるのに不足はなかった。
私への手紙? 謝罪なんてのはきっと違う。何も間違ってない。
ああ、でも、関係にヒビを入れた彼女を恨めしく思った日もあった。彼女もそうだろうし、私を恨んだこともあっただろう。じゃあ怒りの手紙? だとしたら怖い。
でも、彼女の思いを聞きたい。私も何かを伝えたい。
名前と住所の書かれた表面をひっくり返す。

「結婚?」
それは私宛ではなく、参列者宛の手紙だった。
載っている写真は、例の親友と知らない女性のツーショット。「この度私達はオランダにて結婚式を挙げることにしました!」なんて文字が踊る。ここ徳島だ馬鹿。
当然出席できるわけもない。合わせる顔がないなんて理由ではない。国といい相手といい、この圧倒的な疎外感に耐えきれない。彼女はこの手紙で私が来ることを何ら期待していない。
私はスマホに手を伸ばし、電話番号をショートメールに追加する。
「お幸せに」そう書こうとして、思いとどまる。

「しあわせにんじん」
三秒で考えたみたいな陳腐さとつまらなさを奴の人生の絶頂に投げつける。
幸せになるな、とそれだけを考えていた。
【幸せに】2024/03/31
明日からまともなもの書きます…いやほんと…

3/31/2024, 1:26:03 PM