「微熱」
7:30 毎朝同じ電車に乗る。
満員電車の車両の端にいつもあなたがいる。
あなたの存在を初めて知ったあの日。
車両が大きく揺れて私は思い切り尻もちをついた。
多くの乗客が荷物を床に置いて足で固定しているせいで床が見えなくて手をついて立とうにも立てず、やっと手をつける場所を見つけて力を入れてもリュックが重すぎて立てなかった。
恥ずかしくて顔が上げられなかった私に無言で手を差し伸べてくれたのはあなただった。
絶対重かったのに軽々しく私の腕を引っ張りあげてくれた。
お礼を伝え忘れたと思って、同じ電車に乗った次の日もまたあなたがいた。
今までずっと同じ電車だって気づかなかったのが不思議だ。
私が昨日のことのお礼を伝えると「また倒れそうなときは掴まってくれて構わないから」と言って読書に戻った。
あなたとの接点はこれだけ。
でも毎日会えるだけでなんとなく少し嬉しくなる。
制服は着てないけど、同じ高校生っぽい。
大人びてるから先輩かな。
どこの学校なんだろう。
私の方があなたより後に乗って、先に降りるからどこが最寄りなのかも、どこに学校があるかもわからない。
いつも何読んでるんだろう。
毎回表紙が違うから、かなりの読書家だと思うけど。
軽々持ち上げたくらいだから、運動もできそう。
友達は、恋人は、いるんだろうか。
静かだけど、絶対モテるよなぁ。
「ねぇ」
突然あなたに声を掛けられて、「ひゃい」と変な声が出る。
「そんなに見つめられると恥ずいんだけど。さっきからぼ〜っと遠くの方眺めて、かと思えば睨んでくるし」
そんなに分かるくらい見つめてたの!?
羞恥で顔が赤く染まる。
「どうしたの?体調大丈夫そう?」
か、顔近い。
あなたのせいで全然大丈夫じゃない。
「ダ、ダイジョウ…ブです」
これは微熱だけど、重症っぽい。
11/26/2024, 10:37:28 AM