「この再生リスト、30曲も入ってるんですけどー」
「うわ、写真ピックアップするのだるーい」
心底やる気のない顔で天使が二人ぼやいている。
さて、面倒な仕事に限って余計な面倒事が舞い込んでくる、なんてのは人界だけの話ではなく天界だって同じらしい。天窓から入り込んだいたずらな風が、不意に二人の手元をかき乱した。
古びたアルバムの山が崩れ、挟まれていた写真の束が宙に舞い飛び、ひらひら、ばらばらと散っていく。
「あ、」
「やば」
天使たちは咄嗟に手を伸ばしたけれど遅かった。
風に飛ばされた写真は雲の床を抜け落ち、天使の梯子を辿って空を下へと落ちていった。そして地上で今まさに息を引き取ろうとしていた老女の上に一枚一枚降っていく。
たっぷり30曲分の走馬灯は、はらはらと落ちてくる写真の出鱈目な順番で一人の歴史を紡ぎ始めた。
ひ孫が生まれたと思ったら、幼い自分が幼稚園でおゆうぎ会。かと思えば一瞬で大学生になり、夫の葬式の後に今度は夫と初デート。
訳のわからないまま老女の魂が最後に受け取ったのは遥かはるか昔の記憶。自分自身は覚えてもいなかった、誕生の日。
母の胸にしかと抱かれ、まだ目も開かない赤子。
「ああ、ああ!わたし、いま、うまれるのね」
やがてくる死を受け入れ静かに待っていた魂は、この混乱に満ちた走馬灯の騒々しさのせいで、すっかり生気を取り戻してしまっていた。
「……どうすんのよ」
「彼女、天国に来る気なくなっちゃったじゃん」
生きる気力に満ちた活発な魂を無理に天界へ呼び寄せたところで、この静謐な世界との温度差に我慢ができるはずもない。
「人生、もう一周。いってもらう?」
「……だね」
そうして彼女は天使から新しい身体を贈られ、二度目の命を歩み始めた。
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終わり、また始まる、
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所感:
そんな感じで始まる人生2周目。
3/13/2025, 12:50:13 PM